【過去編A】
【“正義”の在処】
【1.足を運ぶは魔なる局】
◇
“今”から1年ぐらいは前の話だ。
“私”がまだ“僕”だった頃の話。
闘技の世界フラウィウスから帰還してしばらく。
シャルティオにはやるべきことがあった。
この国、アンディルーヴ魔導王国には、
アンディルーヴ魔法研究局、
通称「魔局」と呼ばれる組織が存在する。
魔導王国の魔導の発展を支える大事な組織なのだが、
調査を進めていくうちにある真実が発覚した。曰く。
「魔局長が子供たちを攫って
研究実験の対象にしている」
「攫われた子供たちは、
戦争の道具にされている」
というもの。
最初はただの噂話と思われたのだが、
どうやらそうではなさそうで。

「……そんな非道な組織、
見過ごしてはおけない」
だからシャルティオは従者キィラン、
王宮魔導士ローリアと共に、
魔局へ訪れることにしたのだ。

「とりあえず、まずは正式に訪問の旨を
伝えた方が良いと思われますよ、シャル様」
従者キィランに言われ
訪問の手紙を出して数日後、魔局へと向かった。
魔局長と会話して、
情報を得た上で処遇を決める心算。
周りの噂こそあれど、話を聞かずに
いきなり悪と決めつけるのは早計だから。
そして今、3人は魔局の建物の前にいる。
磨き上げられた金属の門はどこか無機質。
その先にそびえる、
小さな城ぐらいはありそうな角ばった建物。
見上げていたら、門が開いた。

「こんにちは、陛下。
私が魔局長ルフィードです。
ようこそ、お越し下さいました」
魔局長を名乗った男は、特異な外見だった。
カラフルなメッシュ混じりの真白の髪に、
謎の紋様の入った赤と青のオッドアイ。
顔には大きなツギハギがあり、
ツギハギで分かたれた左側の肌は青色をしている。
顔の肌から首にかけて、赤と青の紋様が覆っている。
羽織る白衣から垣間見える手にも、
ツギハギと青肌、紋様が見えた。
異様な外見。
されど触れるのは今ではない、か?
得ている事前情報。
この男は自身の持つ魔法によって、
百年以上生きているということ。

「応接室に案内致しますね。
お話はそこで致しましょう!」
相手の表情はにこやかだ。
そのまま案内され、応接室へ。
◇

「…………して。
私への用件とは?」
応接室に通され、茶を出された。
シャルティオなら、万が一これが毒だったとしても
体内に流れる血で解毒出来るので問題はない。
さて、とシャルティオは言葉を考える。

「…………魔局について
尋ねたいことがあったから、
正式に訪れたんだ。
幾つか質問をしても構わないか」

「えぇ、何なりと!」
では、とシャルティオは言葉を紡ぐ。

「……お前の研究の概要と、
そのような研究をしている理由を、
教えて欲しいのだが」

「…………私は」
魔局長が誇らしげに胸に手を当てた。

「──魔法を、
誰もが使える“技術”にしたいのです」
非魔法民差別はご存知ですよね、と彼は語る。
痛いほど知っているさ、あぁ。

「かつて私の恋人は、
非魔法民差別の果てに
無惨な死を遂げました」

「そして私の手には、
特別な紋章魔法の力があったのです」
魔局長が、自身に刻まれた紋章に触れた。
その紋章は、まさか。
魔局長は。
魔局長が語る。
自分の紋章魔法は、
魔法が使えない人間にも
魔法のような力を与えることが出来るのだと。

「だから私はこの力で、
“誰もが特別な力を使える世界”
を目指して魔局を設立し、
研究に励んできたのですよ」
魔局長が、両腕を広げて熱弁する。

「私は陛下のお話もキィラン様のお話も、
少しは存じ上げております」

「忌まれし毒魔法の王、危険なる破術師。
貴方がたならば、
『もしも自分が属性魔法を持っていたら』と
夢見たことぐらいありますでしょう?」

「私の研究は、
その夢を叶えられるのです!」

「………………」
シャルティオは考え込む。
その理想自体は、悪いものではないのだろう。
王のように高い身分にはない魔局長では、
国を変えることなんて出来ない。
だから非魔法民差別で苦しむ人が少しでも減るようにと、
そう考えたのだろう。
理想そのものは、悪くはないのだ。
その理想“だけ”ならば。
その理想で犠牲になるのが、
理想を提唱した魔局長の身体だけであるのならば。

「…………ルフィード」
確かめねばならぬことがある。

「……お前が、
子供たちを攫っているという噂は、本当か」

「攫っているだなんて!
滅相も御座いません!」
魔局長が、驚いた顔で首を振った。

「私は彼らに、
“協力”して貰っているだけですよ?」

「……その“協力”とは、どんなものだ?」

「──私の紋章を、刻むこと」
アスエリオ、と彼が誰かの名を呼んだ。
すると扉からひとりの少女が現れた。
桃色の髪に、光のない紫の瞳。
少女は無言で魔局長を見上げている。
そんな少女に目を遣りながら、
魔局長が言葉を発した。

「彼女は私の“成功作”、
改造人間のアスエリオです。
私は彼女らのような才能のない子供たちに
呪紋を刻んでやることで、
特別な力の行使を可能にしているのですよ」

「そうしたらもう、彼女らは差別されない。
えぇ、これは素晴らしいことなのですよ!」

「…………その子供たちは、
何処から来たんだ。
志願したのか?」

「アスエリオの場合、
この魔局で生まれ育った、
生粋の改造人間ですよ?」
にこり、笑う魔局長。

「だから、後ろ暗いところなど
何にも御座いません!
私は彼女らを思って、
紋章の魔法を施したのですから!」
【To be Continued……】