Chapter01-03

記録者: シクスト・フランドル (ENo. 12)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
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「これって君の趣味?……じゃあ、なさそうだね」

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「対象との関係性もそうだし。損害の程度にもよるかな。
 多少、後遺症にならない傷やはした金を喪う程度だったら誰でも助けたい」

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「それ以上なら、少なくとも見知らぬ人は見捨てる」
「どうせ今日明日のご飯が味気なくなるぐらいだし」


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「ま、例えばオブザーバーさん、君が危機に陥ってたら、
 俺はそういう、大したことない損害の範囲でなら助けようと思うよ」
「ヒトとしての機能に乏しいようだから、その分……かけられる労力が減る。そんな感じ」


それから頭の中で、無数にある対象、無限にある状況を思い浮かべてみる。

価値のある相手、なら、支払いたいと思う物も増えるだろう。
どんなに損をしても、犠牲にしたくない者は本当にありふれている。
能力、仲の良さ、大体はその辺の指標で、あまり大事にしているわけではない自分を反対の秤に乗せて。

仮に、相手が同僚や尊敬する人間だったとして。
損も、底をついてもどうとでもなるものだったら切り崩せる分を崩すだろう。
金は最たる例だ。体力気力もそうだし、尊厳だって、困難からの脱出に比べたら安いもの。

でも、肉体は、命は。限りがある。あまり削りたいものではない。
それに対する答えを出そうとしていた自分に、少しだけ嫌気がさして、頭を目の前に戻す。

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「俺はね。曲がりなりにも、都市の秤を預かる者。
 物を乗せ、人を乗せ。片方を選び続ける者」

人や物事の価値を比べて、手元にある財で動かすのが仕事であるからして。
現実に行っているのに今更思考で実験だなんて、本当に暇潰し程度にしかなりゃしない。

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「多分そっちの世界にもあるんでしょう?トロッコ問題」
「あるいは片方を選べば片方が犠牲になるといった思考実験」「それに対する俺の答えはね」

「そもそもその問いを答える状況にしない」

線路上に人がいるのにトロッコを走らせたりはしない。
あるいは、そんな質問をするやつの近くに居ない。

仮定の話は、考えてて面白くなけりゃしたいと思わない。それだけの話。