カメラの電子音が、ジジ、と小さく一度だけ鳴った。
そして、無機質な声が次の問いを投げかける。

「──あなたにとって“譲れないもの”とは何ですか?
自由でしょうか、信頼でしょうか、愛情でしょうか、それとも秩序でしょうか」
フェルヴァリオは、火を弱めながら小さく息をついた。
すぐには答えない。質問を転がすように、フラスコの底をくるりと回す。

「……この世界の貨幣、かな?」
ぽつりと出たその言葉は、少し意外で、少し現実的だ。

「貨幣って、生きていくための道具だろ。
錬金術を続けるにも材料費がいるし、
依頼をこなすにも生活を回すにも絶対必要なんだ。」
自嘲気味に口元が歪む。

「竜って、金銀財宝が好きだろう?
……まあその通りなんだけど。
隠し持ちたいんだよ、オレも本能では。」
鼻で笑うように、軽く肩を揺らした。

「でも、正直……どうでもいい。」
その一言が落ちた瞬間、空気が少し変わる。

「宝は宝だけど……守っても、増やしても、
それだけで何かが満たされるわけじゃないんだよ。」
フェルヴァリオはフラスコを火から外し、
冷却器につなぎながらゆっくり続ける。

「本当は、もっと別のものが欲しいんだと思う。」
言葉がやわらかく、静かに落ちていく。

「……誰かと関わり合いたいのかも。」
その言葉は、彼自身がいちばん驚いているようにも聞こえた。

「兄弟はいるけど……
オレ自身はまだまだ未熟でさ。
うまく距離の取り方が分からなくて、
どう近づくか、どう離れるか……いつも探ってる。」
目の前の液体が、徐々に澄んだ色へと変わっていく。

「だから、譲れないものって聞かれたら……」
沈黙が数秒。
そして、幼くも正直な声。

「 “つながり” なのかもしれないな。
失いたくないし、ちゃんと作れるようになりたいし……
まだ方法を探してる途中なんだ。」
それだけ言うと、フェルヴァリオは再び作業に集中する。
けれど、その横顔はいつもより少しだけ柔らかかった。