Chapter01-03

記録者: フェルヴァリオ (ENo. 64)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
カメラの無機質な声が、
白い部屋の静けさを切り裂くように響いた。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう」


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「彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます」


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「──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


フェルヴァリオは答えるより先に、フラスコをゆっくりかき混ぜた。
くつ、くつ、と小さな泡が立つ。

そして鞄をガサゴソ探り、銀紙を破る音が部屋に広がる。

ぱきっ。

小さなチョコを折り、口の中へ放り込みながらぼそりと言った。

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「……助けることになるだろうね。」

淡々とした声。
けれど、そこに迷いはなかった。

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「オレが竜であるからに……
 その他の種族が、滅多にオレに損害を出せるとは思えないし。」

かき混ぜ棒がフラスコの中でくるりと回る。

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「だから、どうであれ助ける──ことになる。」

視線は液体から外れない。
語りながらも作業の手は一切止めない。

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「強大な力を持つ種族の義務……かな。」

そこだけ、少しだけ声が沈んだ。
それは誇りでも、義務感でも、諦観でもあるような重さ。

フラスコの中の液体が、じわり、と色を変え始める。
翠の光がゆらぎ、淡い金色が混ざり……
錬金の過程が進むごとに、その輝きは強くなっていく。

フェルヴァリオはその変化を静かに見つめながら、チョコを噛む小さな音を立てた。

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「……まあ、そういうもんだろ。」

白い部屋の中で、少年竜の淡々とした義務感だけが
わずかな熱を帯びて漂い続けていた。

カメラの声が、さらに低く響いた。

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」

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「あなたは『助ける』と答えた。
 では、なぜ助けるのですか。理由を教えてください。」


フェルヴァリオは一度だけ顔を上げ、レンズの方向に小さく視線を向ける。
ほんの一瞬、赤橙の炎が瞳に映り込んだように見えたが、すぐに視線はまた液体へ戻る。

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「──敵意が無ければいいよ。」

言葉は短く、しかし確かだった。
かき混ぜ棒を動かす指先に迷いはない。

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「それだけで充分だ。こっちから先に手を出す理由がない限り、助ける。
 向こうが殺意や裏切りの匂いを出してなければ、それでいい。」

口調には余計な説明が含まれていないが、そこにはいくつもの積み重ねが滲んでいる。
昔の喧嘩や、兄弟のやり取り、町での依頼の数々──
そんな断片が、短い肯定の裏に沈んでいる。

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「オレが竜であること、それ自体が脅威になりかねない世界だ。
 でもだからって、向こうが怯えて逃げるなら話は別だ。
 敵意がある相手には、こっちも身構える。
 だけど、素直に助けを求める顔に、
嘘の匂いがしなければ、助ける意味はあると思う。」

フラスコの中の色がさらに変わり、淡い光が室内を満たす。
フェルヴァリオは液面を覗き込みながら、どこか遠いところを見ているようだった。

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「義務って言ったけど、それだけじゃない。
 助けることで何かが終わるなら、それは単純に“やる価値”がある。
 手を差し伸べるのは、強さの見せびらかしじゃなくて、次の仕事を早く片付けたいから、って面もあるしな。」

少しだけ口元が緩む。チョコの残りを噛む音が小さく響いた。

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「結局、敵意が無ければいい。
 それだけでいいんだ。余計な計算はいらないし、余計な傷も増やしたくない。
 ここまでややこしい世界なら、単純な善意で済むことは大事だと思うよ。」

フェルヴァリオはその言葉を、まるで自分自身に言い聞かせるように落とした。
カメラはしばし沈黙し、ただその瞬間を記録する。