どうぞ続けて、のジェスチャーの後、少々の間があってから
椅子の向こうの相手――Observerといったか――から返答があった。
どうやらこちらの言葉のすべては相手には届いていないようだ。
なら回答はなあなあでいっか、などという考えが頭をよぎり、すぐに反論が思いついた。
相手は長期観測任務に使用される自律稼働式人形、と言った。
であれば、その任務に沿ってこの場にいる、つまり、背後に雇い主的な存在がいる。
そして、その雇い主的存在は、正しくこちらの言動を理解している。
そう考えるのが妥当だろう。
背後にいるかもしれない存在の目的はわからないが、
わからないならひとまず許容できる範囲では目の前の観測者の質問に答えるのが得策だろう。
なに、自分にはそう地雷はないはず、なごやかに会話を続けようじゃないか。
そう思いながら、相槌を打ちつつ質問を待った。
>「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」
いきなり地雷が来た。
普通?普通の連中っすかあ?
ちょっと町の外に出れば魔物がうろついてる世界なのに
自分たちでとくに戦おうとせず力のある他人任せで、
そのくせくっっっっだらねえ身内争いは一丁前なあの連中のことっすかあ?
なんて答えましょうかねー、“無責任でいられる状態っす”とかかなー?
いやまてまて落ち着けビーク―ルビークール。
深呼吸して6秒数えろいちに
さんしーごー
ろく!ヨシ!
まあね、そりゃあね。
目の前の相手見てもわかる通り、どうやら異世界だからねここ。
名前の次は出身世界が聞かれる、わかる話ですよわかるわかる。
とりあえずオブさん(略した)のはなしきこうね。
ふーんなるほどなーとりあえずかなたねーさんとこみたいな世界が近いっぽいかな?
そういえばあの子の世界はどうだろう、どっちかというと自分の地元に近そうだけど。
そんなことを考えながら聞いているうちに相手の話は終わり、こんどはこちらの番だ。
促されれば、そうですね、と前置きをして話を始めた。

「なるほど、そちらは豊かな世界のようですね。
わたしの世界では人々は日が昇ると同時に、あるいはその前に目を覚まし、
陽が沈むまで、あるいは沈んだ後も自分の仕事を続けます。
ただし燃料は高価なので夜間に働くものはあまりいません」
まあ夜もきらびやかな街というものは存在しますけどね、
わたしの産まれた場所はそういうところでした、と閑話休題を挟み。

「休日は週7日につき1日、安息日があるだけです。
週に3日休む、と言われれば、
それでどうやって食っていくんだ、と答える者が大半でしょうね。
職場は基本的には住居のすぐそばですので、通勤という概念は希薄です。
中には旅暮らしをする者もいますが、コミュニティからはあまり歓迎されませんね。
居住する地は球体とも平面ともつかない世界です。
一説には円筒形またはドーナツ型ではないかと言われていますが
全容は解明されていません。
衛星はふたつでこれらは球体または平面の円盤と考えられています」

「以上の内容でご満足いただけるでしょうか?」