Chapter01-02

記録者: アラビク・ハン (ENo. 167)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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「……」

あなたの回答を──若しくは無回答を聞き、
ソレは少しじっとあなたを見詰めていた。


  ──カシャ


それから、また先にあった音が一つ。
撮ったものを確認するような間の後、深々と頭が下がった。

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「観測結果が不明瞭です。
 当機からはあなたの言葉を完全に受け取る事は難しいようです」

どうも椅子の〝こちら側〟と〝あちら側〟では具合が違うようだ。
あなたの言を確実に受け取れているかは、あちらもこちらも分かり得ないだろう。

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「では観察対象、続けましょう」


されどコレにとっては断片でも構わないのか、きゅり、とまたレンズがあなたを向く。


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「環境データの取得。あなたの属する世界を説明してください」

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「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」


──あなたは、異世界の存在にあなたの世界のどのように説明しますか?


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「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」

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「当機は異世界に対する情報を持ちません。
 よって、何が特色であるかを判断するには情報が不足しています」

──基準や比較対象が無ければ、世界の比較とは難しいものだろう。
自らの世界に当たり前に存在しているものが、他の世界では存在しない可能性すらある。
自らの視野では存在しないものが、世界の中には存在している可能性だってある。

つまりは、この質問は不毛なものではある。
……比較対象が無い限りは。


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「──あなたに回答していただくためには、
 当機の世界を説明せねばなりません。
 よって当機は、平均的な一般家庭の生活環境についてご説明致します」


もしあなたが回答に窮しているのであれば、
オブザーバーの言うものを参考に、比較して述べると良いのだろう。

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「朝9時に出社する方は、平均して朝7:22に起床致します。
 家事仕事用の自立稼働人形が6時には稼働を開始しており、
 起床し着衣を着替えた後には朝食を摂取する事が可能となります。
 起床から出勤までには平均28分31秒の時間が経過しています」

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「出勤には電車やバス──公共の車両を利用する方、
 運搬用人形を利用する方ほか、徒歩で出勤する方など様々です」

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「……コンプライアンスに基づき、出勤後については
 当機から申し上げる事は出来かねます」


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「7日を一週間という単位にし、
 うちの4日が平日、うちの3日を休日と制定されております。
 居住する地は球体の惑星、衛星は現在1つ観測されております。
 衛星及び他の惑星の生活様式については当機のデータベースには御座いません」



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「……以上の内容は参考にする事は可能ですか?」



……とはいえ、此れをなぞらえる必要も無い。
あなたの自由に回答してよいだろう。

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どうぞ続けて、のジェスチャーの後、少々の間があってから
椅子の向こうの相手――Observerといったか――から返答があった。
どうやらこちらの言葉のすべては相手には届いていないようだ。
なら回答はなあなあでいっか、などという考えが頭をよぎり、すぐに反論が思いついた。

相手は長期観測任務に使用される自律稼働式人形、と言った。
であれば、その任務に沿ってこの場にいる、つまり、背後に雇い主的な存在がいる。
そして、その雇い主的存在は、正しくこちらの言動を理解している。
そう考えるのが妥当だろう。


背後にいるかもしれない存在の目的はわからないが、
わからないならひとまず許容できる範囲では目の前の観測者の質問に答えるのが得策だろう。
なに、自分にはそう地雷はないはず、なごやかに会話を続けようじゃないか。
そう思いながら、相槌を打ちつつ質問を待った。

>「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」

いきなり地雷が来た。

普通?普通の連中っすかあ?
ちょっと町の外に出れば魔物がうろついてる世界なのに
自分たちでとくに戦おうとせず力のある他人任せで、
そのくせくっっっっだらねえ身内争いは一丁前なあの連中のことっすかあ?
なんて答えましょうかねー、“無責任でいられる状態っす”とかかなー?

いやまてまて落ち着けビーク―ルビークール。
深呼吸して6秒数えろいちにさんしーごーろく!ヨシ!
まあね、そりゃあね。
目の前の相手見てもわかる通り、どうやら異世界だからねここ。
名前の次は出身世界が聞かれる、わかる話ですよわかるわかる。
とりあえずオブさん(略した)のはなしきこうね。
ふーんなるほどなーとりあえずかなたねーさんとこみたいな世界が近いっぽいかな?
そういえばあの子の世界はどうだろう、どっちかというと自分の地元に近そうだけど。
そんなことを考えながら聞いているうちに相手の話は終わり、こんどはこちらの番だ。
促されれば、そうですね、と前置きをして話を始めた。

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「なるほど、そちらは豊かな世界のようですね。
 わたしの世界では人々は日が昇ると同時に、あるいはその前に目を覚まし、
 陽が沈むまで、あるいは沈んだ後も自分の仕事を続けます。
 ただし燃料は高価なので夜間に働くものはあまりいません」

まあ夜もきらびやかな街というものは存在しますけどね、
わたしの産まれた場所はそういうところでした、と閑話休題を挟み。

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「休日は週7日につき1日、安息日があるだけです。
 週に3日休む、と言われれば、
 それでどうやって食っていくんだ、と答える者が大半でしょうね。
 職場は基本的には住居のすぐそばですので、通勤という概念は希薄です。
 中には旅暮らしをする者もいますが、コミュニティからはあまり歓迎されませんね。

 居住する地は球体とも平面ともつかない世界です。
 一説には円筒形またはドーナツ型ではないかと言われていますが
 全容は解明されていません。
 衛星はふたつでこれらは球体または平面の円盤と考えられています」


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「以上の内容でご満足いただけるでしょうか?」