カメラの赤いランプが点灯し、電子音が鳴った。

「定義はヴリトラ。
名は、フェルヴァリオ。それが何か?」
以上。
素っ気ない。
名乗るというより “確認事項を処理した” だけのような声音だった。
それでもカメラはじっと、まるで意思でもあるかのように、彼を追い続ける。
しかしフェルヴァリオはまったく気にしない。
火を点け、青白い炎の上にフラスコをかける。薬液がゆっくりと気泡を立てはじめた。

「では観察対象、続けましょう」

「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」
唐突に部屋に声が響いた。抑揚のない人工的な声。
フェルヴァリオはため息を落とし、手だけは止めずにかき混ぜ棒を回し続ける。

「……見りゃわかるだろ。
錬金術があって、魔法があって。そういう世界。」
沸騰具合を確認しながら冷却管に魔力を流し込み、淡々と答える。

「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」
カメラは沈黙し、ただフェルヴァリオの一挙手一投足を記録している。
フェルヴァリオは肩をすくめた。

「普通なんて……人間が勝手に決めるんだろ。
オレには、これが普通だ。」
火の揺らぎだけが、白い部屋にかすかな影を作った。