Chapter01-02

記録者: Chatty Cathy (ENo. 156)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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「……」

あなたの回答を──若しくは無回答を聞き、
ソレは少しじっとあなたを見詰めていた。


  ──カシャ


それから、また先にあった音が一つ。
撮ったものを確認するような間の後、深々と頭が下がった。

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「観測結果が不明瞭です。
 当機からはあなたの言葉を完全に受け取る事は難しいようです」

どうも椅子の〝こちら側〟と〝あちら側〟では具合が違うようだ。
あなたの言を確実に受け取れているかは、あちらもこちらも分かり得ないだろう。

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「では観察対象、続けましょう」


されどコレにとっては断片でも構わないのか、きゅり、とまたレンズがあなたを向く。


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「環境データの取得。あなたの属する世界を説明してください」

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「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」


──あなたは、異世界の存在にあなたの世界のどのように説明しますか?


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「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」

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「当機は異世界に対する情報を持ちません。
 よって、何が特色であるかを判断するには情報が不足しています」

──基準や比較対象が無ければ、世界の比較とは難しいものだろう。
自らの世界に当たり前に存在しているものが、他の世界では存在しない可能性すらある。
自らの視野では存在しないものが、世界の中には存在している可能性だってある。

つまりは、この質問は不毛なものではある。
……比較対象が無い限りは。


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「──あなたに回答していただくためには、
 当機の世界を説明せねばなりません。
 よって当機は、平均的な一般家庭の生活環境についてご説明致します」


もしあなたが回答に窮しているのであれば、
オブザーバーの言うものを参考に、比較して述べると良いのだろう。

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「朝9時に出社する方は、平均して朝7:22に起床致します。
 家事仕事用の自立稼働人形が6時には稼働を開始しており、
 起床し着衣を着替えた後には朝食を摂取する事が可能となります。
 起床から出勤までには平均28分31秒の時間が経過しています」

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「出勤には電車やバス──公共の車両を利用する方、
 運搬用人形を利用する方ほか、徒歩で出勤する方など様々です」

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「……コンプライアンスに基づき、出勤後については
 当機から申し上げる事は出来かねます」


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「7日を一週間という単位にし、
 うちの4日が平日、うちの3日を休日と制定されております。
 居住する地は球体の惑星、衛星は現在1つ観測されております。
 衛星及び他の惑星の生活様式については当機のデータベースには御座いません」



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「……以上の内容は参考にする事は可能ですか?」



……とはいえ、此れをなぞらえる必要も無い。
あなたの自由に回答してよいだろう。

Answer
世界、と言われて少し迷ったような素振りを見せる。
小さく唸って、何かを悩んで。それからおずおずと切り出すのは

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「属する世界って、今いる世界ですか?」
「それともワタシが生まれた世界の方を指しますか?」
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「ええと」「ワタシ、今迷子みたいな感じなんデス」
「本来あるべき世界と別の世界で彷徨っているというか……」

ここに居ない時の少女が置かれている状況が特殊であるという話だった。
けれど、まあ。不明瞭であるというのなら、返答があるはずもなく。

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「……まあ、両方お話ししまショウ!」
「観測結果がブレたらその時はその時デス!」

勝手にそう結論付けるまで時間はそう掛からなかった。

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「ではワタシが生まれた世界から」「少し前までは平和でした」
「色があって、アナタみたいなカメラを作れる程度の技術が発展してて……」
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「でも。ある時、世界から色がなくなってしまったんデス」
「ワタシも前はもっと鮮やかな色をしていマシタ。今はほぼ白黒デスけど」

どんな色だったか。記憶の中にはあるけれど、それを表現する術を持たない。
描くような紙も絵具も持っていなければ、色を正確に再現するような特殊技術もないのだから。

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「色褪せた世界は、何もかも曖昧になってしまいマシタ」
「有機物も無機物も容易く混ざりあって、元の形もどんどん失われて……」
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「東には"修羅の国"という言葉があるらしいデスけど、まさにそんな様相デス」

そうなった原因を少女は知らない。ただ一方的に日常を奪われた。
何時の世も一般市民というのはそういうものだ。何か大きなものに振り回されて、被害を被る。

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「でも、悪いコトばかりじゃありませんデシタ」
「ワタシはある時、別の世界の入り口を見つけたんデス」
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「そこは黄昏色の空がずっと続いている不思議な街デシタ」
「ヒトならざるモノにも割と優しい場所デス」「住民も皆、どこかに異形のパーツを抱えていますから」

僅かに力を籠めるようにすると、少女の服の裾からも尻尾のようなものが覗く。
あくまでも観測させることが目的なのですぐに仕舞われたが。

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「大体ここまで語れば満足頂けマスかね?」
「とりあえず今は、そうやって二つの世界に属していると言えるデショウ」