Chapter01-01

記録者: ■ の_罪 (ENo. 154)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


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「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

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「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

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「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

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「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

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「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

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「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

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「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


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「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



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「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

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「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

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「…………。」

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「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
2つに分け、三つ編みにしてもなお腰ほどある濃紺の髪。
真紅のリボンで結んだものは背もたれより後ろに回し、
前は顔周りだけ。

深い色に縁取られて女の顔はより白く見えるのだろう。普通なら
ただこの純白の部屋では、血色の良さが引き立つだけ。
簡素な仕立て、だけど質のよい生地のブラウスの首元にも紅一つ
瞳と縁取る睫毛は髪と同じく、そのてっぺんで重力に逆らうように2つ立つリボン
濃紺と真紅が彼女彩りのほとんど

「私を私と定義する名前、特徴ですか」

桜色の唇に、つやのある人さし指の爪が重なる。
同じ色でも、質が違えば溶け込むことはない。

「その2つは同じ答えですけれど……ここ・・ではどうでしょうか?」

「      」

「……ふう」
「どうやらここでも駄目みたいですわね」

「ああ、」

何かを思い返すように視線を斜めに遣りながら独りごちていた焦点がレンズに戻される。

「失礼いたしました」
「どうやらわたくし、世界の制限……と呼んでいるものに
 名乗ることを許されていないようですの」

「名乗って……名乗れてしまえればそれが表す力で壊してしまうから
 知らない世界に出るかわりの制限としては妥当な判断でしょう」

誰か。例えば目の前のObserverが掴めば細い手首を一周できるだろう
何か。そのまま力を加えればへし折れそうな、白く細い手首の
いや、手首だけではない。椅子に座ったことでスカートの裾から見えるようになった足首も、髪の重みを支えられるにはその首も、簡単に手折れそうな存在とは遠くかけ離れたような言葉が歌うように紡がれる

「それでも答えるのが"喚ばれた"最低限の礼儀」
「いえ、私を記録することで少しでも刻めるのなら、いくらでも」

椅子の音を鳴らさず、女は立ち上がり、数歩足を動かして
観測者のレンズが追尾していることを確かめて、ほほ笑み

そして

くるりと回って

名乗ること叶わずとも!

全円よりも多くの生地を蓄えているようなスカートを舞わせ
三つ編みが重さなどないようにふわりと軌跡を描き
高らかに、目の前のひとりに聞かせるには過ぎる声量は部屋の隅々にまで届かせるように力強く、只人ただびとならそれだけで動けなくなるような重さ
――それでいてやはり、歌うように、謳うように、軽やかでたの楽/愉しそうに、鈴とも小鳥とも異なるのに耳朶から脳髄にとろけ、しみこむような声で、"それ"はわらう

スーリャ。ええ、スーリャは己を失わずここにいるのですわ!!

高さの知れぬ天井そらを仰いで
くるりくるりと回っていた足が止まる。
遠心力を失ったスカートは床よりわずか上、足首を隠し
少しだけ紅潮した頬は声を張り上げたからか、それとも興奮か。

「……どうぞお気軽に、スーリャとお呼びくださいな?」

序章introはここまで。
スカートを掲げて、下げた右足のつま先を立て
背筋を伸ばしたまま膝をまげて挨拶カーテシー

背後にまわした手でスカートを御しながら椅子に腰掛けなおし
指先を重ねた姿は、なにかのモチーフのように洗練された印象を
目の前の機械人形ではなく、その向こうの"誰かみるもの"にあたえるだろう

「それで」
「貴方を観測できる私を観測するもの、Observer」
「尋ねることはこれでしまい」
「……なんてことはありません、でしょう?」
「なんでも訊いてくださいませ」
「不肖スーリャ、答えられる限りはお答えいたしますわ」


どんなことでも・・・・・・・

その微笑みにこめられた感情いろは、__……