Chapter01-03

記録者: 劉 浩然 (ENo. 24)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
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「えー、思考実験ー?
 そういう頭使って考えなきゃいけないこと
 俺好きじゃないんだってば……」
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「というか聞くまでもなくね?
 どう考えても劉浩然なら助けるに決まってんじゃん!」
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「後先考えずわーって飛び出しちゃうとこあんだよね俺って
 そういうところを弟や周りに怒られたり──」

思考実験という言葉に面倒さを感じているようだったが、
案外青年は素直に解答を始める。
怒られているところを思い出したのか苦笑を浮かべながら。

しかし、相対するレンズの無機質さにふと開いた口を閉じた。
じっと、その観察するだけの物体を見つめている。

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「……いや、いいか
 お前相手に色々取り繕うのもあんま意味なさそうだ
 それに……別に今更バレたって困ることはないし」

長く青年は息を吐く。
先程までの明るい笑顔をすっかり消して。
軽く身を乗り出してテーブルに両肘をついた。
組んだ両手の上に顎を軽く置いて、ニヒルな笑みを浮かべる。

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「じゃ、改めて解答し直すけど」
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助ける訳ないでしょ
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「悪いけどそう簡単に不利益を被るのは御免だね」

まるで人が変わってしまったかのように青年は冷たい表情で笑って見せる。
これが彼の本性、というものなのかもしれない。
偽ることを唐突にやめるなんてどういった心の変化があったのか……
それを問う者はここにはいないだろう。
或いは、それこそが答えなのかもしれない。

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「他人の目があるなら……多少の無茶はするかもね
 一応そういうことをしそうな奴、ってことにしてるから」
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「まあでも命をかけなきゃならなそうなレベルだったら、
 たとえ助けを求めて叫んでる奴が子供だろうが老人だろうが……
 そいつが自分の友人だろうが助けないよ」

他人のために命を賭けるなんて自分がする意味がない。
きっぱりとそう青年は言い切って、状態を起こし両手を開く。
まるで自身の手のひらで救える者は誰一人いないとでもいうように
ヒラヒラとその空の両手を振ってみせた。

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「……ただ、そうだな」
「弟のためだったら俺はなんでもするよ」

青年はぴたりと戯けたような態度を止めてテーブルに視線を落とす。
そしてぼそりと唯一命を賭けられる可能性について口にした。

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「腕だろうが、目だろうが、命だろうが……
 俺が捨てる事で弟が助かるなら俺はなんだってすると思う」
「俺はもう、最悪あいつさえ生きてりゃいいから」

テーブルを眺め続ける青年の目は恐ろしいほど澄んでいただろう。
声色に取り乱したような様子は一切なく、
彼が既に"その覚悟"を決めていることが
無機質な対話相手にも伝わっただろうか。

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「そんなことしたら……たぶんあいつは怒るだろうけど
 もしかしたら、泣くかもしれないけど……」
「俺なんかであいつの何かが守れんなら
 ……安いもんなんだよ」
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「ま、それに最悪死んだとしても
 死んじまったら文句も聞こえないしね」

青年は軽く、乾いたような笑みをこぼして顔を上げる。
冷たいレンズに自身の顔がうっすらと写っているような気がしたのか、
少しばつの悪そうな顔をして目をほんの少しだけ逸らした。

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「だから……この問いに対する俺の答えは」
「助けを求めている相手が俺の弟なら何がなんでも助ける」
「それ以外のやつだった場合はどうでもいい」
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「……になるかな
 はは、悪いね急に明るくお間抜けな劉浩然をやめちゃって」
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「お前は単なる観察係
 ……記録するだけのやつなんだろ
 そんで、正しく俺の言葉が伝わってるかどうかも
 どうにも怪しいみたいだってわかった」
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「じゃーもう馬鹿なふりすんのはだるいだろ!
 あとどれくらい俺に質問する気なのかは知らないけど……」
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「こっからは本心で答えてやるから、
 喜んでくれてもいいんだぜ?」

うっすらと青年は冷たいガラスのひとみに向かって微笑んだ。