Record

記録者: ルイ=テネーブル (ENo. 46)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

その日も眠れぬ夜だった。
つまらない、とただ思った。
嫌なことを思い返して眠れない夜なんて、
己らしくもないの不本意だがいつもだから。

桃色の髪をした盗賊はふと思い至り、荷袋を漁る。
いつも所持している賽子、そのうちのふたつ。
イカサマ用の仕掛けを施していないものを
安宿の寝台の上から床へ、おもむろに放った。

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「へえ」

六面の賽子はふたつとも六の目を上に静止する。
この組み合わせであれば最も大きい値の、揃目。
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「らしくもなく、ツイてるってことかね」

目の笑っていない顔で笑いつつ、
別に良いことが起きればいいとは思っていない。
それよりは、面白いことが起きてほしい。

最早己の渇き切った欲を埋められるのは、強い刺激だけだ。
イカサマ賭博も、盗人としての暮らしも、自棄酒も。
どれほど痛い目に遭おうと続けるのは、
そうでなければ死んでいるのと変わりがないから。
おそらくこの盗賊の心は、ある雨の日の葬儀にて
祖父の棺と共に埋葬された。
己が殺めたも同然の、最愛の祖父と共に。


度の強い果実酒をあおる。
別段盗賊は酒に強くはない。酔いつぶれて眠りたいだけ。
だから、案外すぐに酩酊の中意識を手放した。
望んだとおり、或る種「面白いことになる」なんて思いもせずに。