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記録者: 早瀬 颯切 (ENo. 54)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

飼い犬に手を噛まれた、なんて言葉がある。

その犬の牙が鋭く、
噛まれることで致命傷になるとすれば
噛まれないようにする事も恐らく飼い主は考える。

例えば牙を抜くだとか。
物理的にできぬことであれば
気性荒い猛犬でも実行には移せまい。

問題はその牙自体は必要だった場合。
その牙を飼い主以外に向けさせなければならなかった場合。
その場合は、

教え込むほかあるまい。
主人の意にそぐわぬ行いには罰をと。
そして放し飼いであるのなら、

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「……神経すり減るわ、こんなん」

……たとえば犬同士に監視をさせあうだとか。
不本意であろうと、そのくらいは覚えるだろう。
所詮は思考と言葉あれども、下賤の犬。
それが、「主人軍部」の考えであることくらいは
翡翠の目の蜻蛉もよおく理解している。

腕輪に仕込まれた致死の毒針、
一押しすれば深く突き刺せる釦を互いの手に。
無論、己で腕輪を外そうとすればその瞬間に針は飛び出すように
基礎の仕掛けから全て抜かりなく。

翡翠の瞳と、射干玉の瞳。
対で組まされた蜻蛉猟犬は共に仕事をこなし、
己が命のため互いに睨み合っている……筈だった。
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「しかしまあ」

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(なんでアイツ、姿も形も見えないんだ)

只白い部屋に、視界にいつもちらつくあの夜の色は
微塵も見えることはなく。
最後の言葉はすんでで飲み込めて安堵し、
そして同時に思う。

今この時この場所は異常にして危機、転じて最大の好機かもしれないと