あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。
あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。
──カシャ
何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。
それは────人物と解釈は出来はするだろう。
腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──
無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。

「……」
……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

「……あなたは私を観測可能ですか?」
男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
再起動した時にはこの部屋に在りました」
……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
初期照合を致します」

「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

「あなたを“あなた”と定義する特徴を」
──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?
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「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」
きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。
──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。

「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
即ちAVA-β09、通称Observerと申します。」

「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
当機はその中の一つで御座います」
そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

「…………。」

「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」
説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。