Chapter01-02

記録者: 劉 浩然 (ENo. 24)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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「……」

あなたの回答を──若しくは無回答を聞き、
ソレは少しじっとあなたを見詰めていた。


  ──カシャ


それから、また先にあった音が一つ。
撮ったものを確認するような間の後、深々と頭が下がった。

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「観測結果が不明瞭です。
 当機からはあなたの言葉を完全に受け取る事は難しいようです」

どうも椅子の〝こちら側〟と〝あちら側〟では具合が違うようだ。
あなたの言を確実に受け取れているかは、あちらもこちらも分かり得ないだろう。

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「では観察対象、続けましょう」


されどコレにとっては断片でも構わないのか、きゅり、とまたレンズがあなたを向く。


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「環境データの取得。あなたの属する世界を説明してください」

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「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」


──あなたは、異世界の存在にあなたの世界のどのように説明しますか?


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「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」

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「当機は異世界に対する情報を持ちません。
 よって、何が特色であるかを判断するには情報が不足しています」

──基準や比較対象が無ければ、世界の比較とは難しいものだろう。
自らの世界に当たり前に存在しているものが、他の世界では存在しない可能性すらある。
自らの視野では存在しないものが、世界の中には存在している可能性だってある。

つまりは、この質問は不毛なものではある。
……比較対象が無い限りは。


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「──あなたに回答していただくためには、
 当機の世界を説明せねばなりません。
 よって当機は、平均的な一般家庭の生活環境についてご説明致します」


もしあなたが回答に窮しているのであれば、
オブザーバーの言うものを参考に、比較して述べると良いのだろう。

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「朝9時に出社する方は、平均して朝7:22に起床致します。
 家事仕事用の自立稼働人形が6時には稼働を開始しており、
 起床し着衣を着替えた後には朝食を摂取する事が可能となります。
 起床から出勤までには平均28分31秒の時間が経過しています」

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「出勤には電車やバス──公共の車両を利用する方、
 運搬用人形を利用する方ほか、徒歩で出勤する方など様々です」

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「……コンプライアンスに基づき、出勤後については
 当機から申し上げる事は出来かねます」


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「7日を一週間という単位にし、
 うちの4日が平日、うちの3日を休日と制定されております。
 居住する地は球体の惑星、衛星は現在1つ観測されております。
 衛星及び他の惑星の生活様式については当機のデータベースには御座いません」



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「……以上の内容は参考にする事は可能ですか?」



……とはいえ、此れをなぞらえる必要も無い。
あなたの自由に回答してよいだろう。

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「え〜!?ちゃんと届いてるのかもわかんないのに、
 まだ観測?だか観察?だかを続けんの!?」
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「質問ある?とは聞いたけどさぁ……」
「つーか今度は世界の普通について?
 俺難しい話とかマジで全然ついていけないよ?」

青年は嫌そうな声を上げて、そこで初めて椅子から動いた。
ただそれは近づいたのではなく少し後ろへ引いたものである。
先程までの"不自然な自然体"はそこにはなく、
今はただ心底面倒だと思っていそうな青年の顔があるだろう。
はあ、と深く息を吐き青年はカメラ頭に向き直る。

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「……でも、そっかお前のところは4日働いたら
 3日も休んでもいいような……それが一般の形なんだな
 ……それは、なんというか……」
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「良い、世界だね」
「それが一般基準だっていうなら、良い世界だよ」

軽く青年は天井を見上げる。これと言って特に何もない。
けれどもその目はどこか嬉しそうな、
それでいてひどく羨ましそうに細められていた。

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「俺んとこは……そうだなー、一般的な仕事は農耕かな?
 みんなが何時ごろ起きるとかはわかんない、
 たぶん育ててるものにもよるんだろうし」
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「家事を代わりにやってくれる人形なんてものはないし、
 農耕……植物の育成だからね
 何日働いたら何日休める……なんて基準はないよ」
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「天気が悪けりゃ当然農作業なんかできないから
 強制的に休日にはなるけど……そうなれば
 後々食うに困るようになるかもしれない」

青年の属する世界に些細な家事を片付けてくれる人形はいない。
一般的な仕事は天候などの自然に左右されるものであって、
毎日、毎年決められたスケジュールで進行するようなものではない。
食物が飽和しているような世界でもないようだ。
カメラ頭の属する世界と比べてしまうと……些か文明が劣っていた。

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「でも……なんていうかな
 全身全霊で今を生きてるって感じがするんだよね!」
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「自分だけの力じゃ、人間だけの力じゃ
 どうしようもないくらいのでっかい力があるからこそ、
 あらゆるものが力強くて綺麗だよ!
 俺はみんなの生き方が好きだ!」
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「……。」
「ま、こんなこと俺が言い出したら反感買うだろうけど」

しかし青年は文明の出来など比べる気がないようだった。
自分の住んでいる世界、あるいは見てきた部分を愛しているようである。
ボソリと小さな声で言葉を付け足しながらもその顔は晴れやかだ。
──晴れやかだった。

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「えーっと、そういえばお前が教えてくれたのは
 一般家庭の話だったよな!
 ならお前のところにもいるのかな?」
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王族とか、貴族っていう……自分の保身しか考えてない
 クソみたいな地位の連中が、さ

しかしその空模様は一瞬で変わる。
冷たい雨や雪を思わせるような視線がレンズに向けられる。
相手を非難しようという姿勢はないようだが、その目はひどく冷たい。
一般を語っていて不意に頭をよぎった人々に存在は
青年にとっては好ましくないものだったのだろう。

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「……あは、ごめんごめん!なんでもない!
 普通について知りたいんだもんな、王族とかの話は
 普通なんてものから外れてるし今は関係なかったよ!」
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「ま、兎も角俺んとこの普通っていうのは
 自然に翻弄されながら必死に生きる……ってとこかな!」
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「もし機会があったら是非とも俺んとこの景色を
 記録していってほしいもんだよ!マジで超綺麗だから!
 百聞は一見にしかず、なんていうし!」
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「絶対俺に話聞くより見た方が早いしな〜
 なんたって俺、あんま物事を知らないからさ!」