
「え〜!?ちゃんと届いてるのかもわかんないのに、
まだ観測?だか観察?だかを続けんの!?」

「質問ある?とは聞いたけどさぁ……」
「つーか今度は世界の普通について?
俺難しい話とかマジで全然ついていけないよ?」
青年は嫌そうな声を上げて、そこで初めて椅子から動いた。
ただそれは近づいたのではなく少し後ろへ引いたものである。
先程までの"不自然な自然体"はそこにはなく、
今はただ心底面倒だと思っていそうな青年の顔があるだろう。
はあ、と深く息を吐き青年はカメラ頭に向き直る。

「……でも、そっかお前のところは4日働いたら
3日も休んでもいいような……それが一般の形なんだな
……それは、なんというか……」

「良い、世界だね」
「それが一般基準だっていうなら、良い世界だよ」
軽く青年は天井を見上げる。これと言って特に何もない。
けれどもその目はどこか嬉しそうな、
それでいてひどく羨ましそうに細められていた。

「俺んとこは……そうだなー、一般的な仕事は農耕かな?
みんなが何時ごろ起きるとかはわかんない、
たぶん育ててるものにもよるんだろうし」

「家事を代わりにやってくれる人形なんてものはないし、
農耕……植物の育成だからね
何日働いたら何日休める……なんて基準はないよ」

「天気が悪けりゃ当然農作業なんかできないから
強制的に休日にはなるけど……そうなれば
後々食うに困るようになるかもしれない」
青年の属する世界に些細な家事を片付けてくれる人形はいない。
一般的な仕事は天候などの自然に左右されるものであって、
毎日、毎年決められたスケジュールで進行するようなものではない。
食物が飽和しているような世界でもないようだ。
カメラ頭の属する世界と比べてしまうと……些か文明が劣っていた。

「でも……なんていうかな
全身全霊で今を生きてるって感じがするんだよね!」

「自分だけの力じゃ、人間だけの力じゃ
どうしようもないくらいのでっかい力があるからこそ、
あらゆるものが力強くて綺麗だよ!
俺はみんなの生き方が好きだ!」

「……。」
「ま、こんなこと俺が言い出したら反感買うだろうけど」
しかし青年は文明の出来など比べる気がないようだった。
自分の住んでいる世界、あるいは見てきた部分を愛しているようである。
ボソリと小さな声で言葉を付け足しながらもその顔は晴れやかだ。
──晴れやかだった。

「えーっと、そういえばお前が教えてくれたのは
一般家庭の話だったよな!
ならお前のところにもいるのかな?」

「王族とか、貴族っていう……自分の保身しか考えてない
クソみたいな地位の連中が、さ」
しかしその空模様は一瞬で変わる。
冷たい雨や雪を思わせるような視線がレンズに向けられる。
相手を非難しようという姿勢はないようだが、その目はひどく冷たい。
一般を語っていて不意に頭をよぎった人々に存在は
青年にとっては好ましくないものだったのだろう。

「……あは、ごめんごめん!なんでもない!
普通について知りたいんだもんな、王族とかの話は
普通なんてものから外れてるし今は関係なかったよ!」

「ま、兎も角俺んとこの普通っていうのは
自然に翻弄されながら必死に生きる……ってとこかな!」

「もし機会があったら是非とも俺んとこの景色を
記録していってほしいもんだよ!マジで超綺麗だから!
百聞は一見にしかず、なんていうし!」

「絶対俺に話聞くより見た方が早いしな〜
なんたって俺、あんま物事を知らないからさ!」