Chapter01-03

記録者: 葉隠 彰 (ENo. 23)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

クリックで開閉

  ──カシャ


icon
「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

icon
「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

icon
「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

icon
彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


icon
──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

sample

icon
「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

icon
「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


icon
「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

icon
「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
その質問に一瞬だけ目を細め、冷たく、しかし確実に答えた。
その声には、いつもの冷静さを超えた鋭さが宿っていた。

「……状況を正確に教えてください。その『困難』が、自業自得によるものかどうか。それが、私の行動を決める唯一の分岐点です」

静かに、しかし氷のような口調で続ける。

「もしその者が自らの愚行によってその立場に陥ったのなら 私は助けない。手を差し伸べるどころか、その場でその者の罪を暴き、被害者たちに代わって責任を取らせる。自業自得の人間を救うことは、正義の冒涜です。父が教えてくれたのは『弱者を守れ』であって、『悪を甘やかせ』ではありません」

だが、次の瞬間、声に熱が灯った。

「しかし、もしその者が『被害者』だと分かれば状況は変わります。詐欺の被害者、暴力の標的、弱みを握られて沈黙を強要されていた存在。そういう人間なら、たとえ私が命を賭けても助けます」

「あいにく、僕は“探偵”ですからね…加害者なら見捨てますし被害者なら、全力で守りますよ」

「損害なんて関係ない。被害者を救うためなら、どんな傷を負おうと構わない。それが僕の正義であり、探偵としての葉隠 彰の、唯一の生き方です」

最後に、静かに、しかし鋭く告げた。

「だから、教えてください。
その人物は、どちら側ですか?」