頭が……カメラの、ヒトがそこに座っている。
奇妙だが、この空間の雰囲気に何故かよく映えていて。突然の白い部屋が今回初めてではなかったことも手伝って、さして驚き、まして恐怖はなかった。
ただ──またかぁ。今回はなにをしたらいいんだろうなぁ──……という、諦めにも似た気持ち。それと、自分の中のなにかが欠けてしまっている感覚……しかもそれを自覚できていないような、白昼夢に似た、なんとも言えぬもやもやとした不快感があった。
しかしまあ、それを目の前の人物に問おうにも。向こうも自分自身のことがよくわかっていなそうな反応をしているため、どうにもできず。つまり僕は、だいぶ困ってしまっいたのであった。
まあ、向こうからすれば、自身もなぜここにいるのかわからない状態で、唯一話ができそうな相手であるところの僕が、如何にもふわふわとして掴みどころもなく、右も左も何もわからない風で……なんの役にもたたなそうである、という意味では一緒、もしくはもっと酷い状況なのだろうけれども……
整理しよう。確定している事は……どうやら僕はこの人物に観察されなければならない……ということだ。いや、まあ、人物といっていいのだろうか……?
この目の前の存在は、つまるところ機械人形らしい。機械人形はヒトといえるのだろうか?それとも、造られたものだから、人格や言動も、呼吸に紛れるふとした抑揚も、全てが偽物?
……いや、そんなことを考えるのはやめよう。生きているとは何か、ヒトかどうかの定義は何か、などと、思考しても詮無いことで。
意識があるなし 魂があるなし 考えたとて、そんなことに結論がでるわけがなく。
万が一ここから永久にでられなくて、無限の時間を持て余すようなことでもあれば、それはその時にじっくりと考えることにしよう。
先ずは、質問にこたえよう。僕はそう決意して口を開いた。

「……茶太郎、だよ、古閑茶太郎。
見て分かる通り、髪の毛が茶色いから。
……それで茶太郎って名前をつけたんだって。単純すぎるでしょ。
……ねぇ、笑ってよ。そこは笑うところだよ?」
自嘲するように自分で笑って。
目の前のカメラに向かってピースサインをしてみたりして。
お決まりの鉄板ネタは目の前の存在にはウケが悪かったようで、無言の返答に、茶太郎はつまらなそうに口を少し窄めた。

「そうだねえ、じゃあねぇ ……仲いいヒトからは、ちゃた。って呼ばれてるよ」
ちゃた。そう。そう呼ばれて居たはずだ。
その言葉を口にした瞬間、喉の奥に釘を刺されたような。或いは胸の辺りで布を引き千切るような痛みが走った。
……それは、だれにそう呼ばれていたんだっけ。思い出せない。
この言葉を耳にする度に、幸福で、上質な砂糖を口にしたようた心地になった。それだけはおぼえているのに。
口の中が妙に甘ったるくて、水が飲みたくなった。
喉が乾いている感覚がする。これは、ただのストレス反応かもしれないし、あるいは夢がみせる、幻覚だったかもしれない。