Chapter01-01

記録者: ウィルフレッド・メイフィールド (ENo. 13)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

あなたがその椅子に、座ったとき
あなたは視界の“先”に、誰かがいることに気が付いた。
白い部屋のなか、白い椅子に誰かが、座っていた。


  ──カシャ


何かが擦れるような、もしくは閉じるような音。
その音は対面の椅子から聴こえてくる。

それは────人物と解釈は出来はするだろう。

腕が二本あり、脚が二本ある。
それなりに体格の良さそうな身体に──無機質な四角いかたちが、乗っている。
あなたにその知識があるならば、それはカメラのように見えるだろう。
艶やかなレンズがじっとあなたを見詰めるように据えられていた。


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「……」


……そうしてその状態のまま、暫く。
沈黙に耐えかねてか、将又訝しんでか、あなたが口を開こうとした時、
もしくは、十分すぎる時間が経った後に、声がする。

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「……あなたは私を観測可能ですか?」

男性的な声だ。決して被り物の様にくぐもった声はせず、妙に鮮明な音色。
どこか奇妙な言い回しの後、まるで咳払いをするように、
人であれば口元に当たるだろう所に軽く手を添えて、
それから改まって一つ礼をした。

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「先ほどは不躾に見つめてしまい申し訳ありません。
 状況を把握するため暫し観察を行っておりました」

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「当機は此の場所について説明をすることが不可能です。
 この部屋についての事前情報はインストールされておりません。
 再起動した時にはこの部屋に在りました」


……即ち、この者もまたこの部屋に居る理由を知らないという事だろう。
彼方もまた、この部屋に呼ばれた者の一人……ひとつであるようだ。
現状を確認するようにレンズを左右に向けたソレは、しまいには改まってあなたにレンズを向け直す。
ピントを合わせるようにレンズがくるりと回り、それから頷くように一つ頭を揺らした。

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「観察対象、まずはあなたという存在を記録するための
 初期照合を致します」

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「あなたの識別情報を教えてください。──名前、呼称、あるいはそう呼ばれる理由を」

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「あなたを“あなた”と定義する特徴を」




──あなたは得体の知れない観察者に、どのような自己紹介をしますか?


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「──失礼致しました。まずは当機から情報を開示すべきでしたね」

きゅり、とレンズがまた周り、一拍の間。
まくしたてる事は不信感や警戒を生む事を
判っているからこその故意の間であった。

──あなたは回答せずとも良いのだろう。
コレはあなたを観察対象と認めたようだが、
観察される事を万人が受け入れる訳も無いのだから。



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「当機はAster Visual Automataシリーズのβライン第9号機。
 即ちAVA-β09、通称Observerオブザーバーと申します。」

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「Asterismは情報観測機器を製造する企業ですが、
 中でもAVAシリーズは主に長期観測任務に使用される自律稼働式人形です。
 当機はその中の一つで御座います」


そこまで説明をして、あなたの顔を窺う。
どうも中々ピントが合わない様子で、暫くレンズを回した後。
考えているかのようにまた手をレンズの傍に沿えていた。
して、数拍。

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「…………。」

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「即ち、オートマタと呼ばれる機械式人形のひとつで御座います。
 その中でも、観察・観測を目的として製造されたものです。以後何卒お聞き見知り」


説明が難しかったろうと解釈したらしい。
其処まで告げ、改めて頭部を深々と下げた。──さて、あなたの番だ。
Answer
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「……。」

部屋に響いていたのは一人分の話し声だけだった。
対面するように席に座っている男は一度も口を開かない。
恐怖や驚きで固まっている様子はない。
ただじっと、目の前の事象を観察するように静かに黙って座っていた。

粗方話が終わる。一人分の声は消え、沈黙が流れるだろう。
お互いの表情は分からない。
方や人間とは似ても似つかぬ形をしており、
もう一方は人形のような相貌をひとつも崩さずに黙っていた。

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「──君は、よく喋るな。」

徐により人の形に近い方が口を開く。
声色に緊張はない。寧ろどこか呆れたような、ため息に似た声だ。
レンズはまた静かにきゅるりと音を立てただろうか。
対面に座る観察対象は口のきけない人形ではなかったのだから。

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「それは焦りからか?緊張からか?
 ……いいや、君はそう言った類の物じゃなさそうだな。」
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「──ふん、良いだろう。
 今はお前の言っている事を信じてやるのだよ。」

椅子を少し引いて男の方は足を組む。
高圧的にも思える態度で目の前の存在に向き直った。
どうやら会話に応じる気になったようである。

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「だが君にとって僕が観察対象であるように、
 君もまた僕にとっての観察対象だ。
 何か僕から情報を聞き出したいのであれば、
 今後も先程と同じようにまずは君から語りたまえよ。」

お前のことも見ているからな、と表すように指を一本、対面へと向ける。
会話という和やかな雰囲気はここにはなく、
まるで情報の交換を行う場のようなどこか事務的な空気があった。
相手の返答も待たずに男は再び口を開く。

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「ではまずは自己紹介といこうか、機械人形オブザーバーくん。」
「僕の名はウィルフレッド・メイフィールド。」
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「種族の説明は必要かな?
 生物学上の分類としてはヒト、というものだ。
 昨今では知恵のある人……ホモ・サピエンス。
 動物の中で著しく脳の発達した生物、人間とも言うがね。」

相手がこの話についてこれるか否かは男にとって興味がないらしい。
ただ淡々と言葉を並べてそれを向こう側へと押し出している。
口を挟む余地など認めないように、ただただ言葉を述べていた。

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「君に"個"という概念が存在するのか否かは
 正直言って僕に興味はないが……」
「有象無象の中のひとり、と認識されるのは腹立たしい。
 もう少し僕と言う存在について語ってやるとするか……。」
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「君が観察や観測をする為の物だと言うのなら、
 僕は"あらゆる事件や問題を解明するため"に
 この世に生まれ落ちた者と言えよう。」

人間は機械と違って何かをするために創られる事などはないがね、
と男は付け足して軽く息を吐き出した。

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「……哺乳綱の中で脳が発達した生物を霊長類と呼ぶが
 大抵ヒトはこの枠組みから外されて扱われる。」
「それは何故か?ヒトというものは霊長類……
 別名サル類とは異なるからだ。」
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「見た目、生活、社会……あらゆるものがサルとは異なる。」
「だが最も多くの人間が口にする相違点は"賢さ"だろう。」
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「人間は全ての生物の中で自分達が最も賢いと思いたがる。」
「賢さの定義が云々などは面倒なので今回は省くが……
 まあ、僕はそう思う事を否定はしない。
 賢い生物がヒトなのだと、ね。」

話を聞く相手がそれこそただの人間であれば、
話の筋道がずれ始めたように感じるかもしれない。
しかしレンズは静かに男を眺めて、
男が話し終わるのを待っているだろう。
その様子を男は眺めて、軽く鼻で笑った。

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「そんな"賢いとされる人間"が巻き起こす事件や問題を
 解決する者に必要な能力はわかるかね?」
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それは誰よりも賢い者であることだ。
「さて、ここまで言えば理解できるな?つまり僕は──」

ずっと顰められていた顔が不意に和らぐ。唇が軽く弧を描いた。
その笑みは驕りや他者に対する嘲笑から浮かべられてはいなかった。
ただ純粋に、己の能力に誇りを持っているが故の笑みである。
堂々と、その力を所有している自身を愛し認めているが故の、笑み。

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賢さから他の動物とは一線を画するヒトの中で、
 より賢い者である……ということなのだよ。
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「それ故に僕はあらゆる事件や問題を解明するために
 この世に生まれ落ちた者……というわけだ。」
「僕、ウィルフレッド・メイフィールドという存在を
 確かにするものといえば間違いなく"この点"だな。」

記録するのであればこの点を抑えておくと良い。
そんな風に自信ありげに男は笑って口を閉じる。

どうやら彼の自己紹介はひとまず終わったようであった。