Chapter01-02

記録者: トリンシー・ウォーカー (ENo. 105)
Version: 1 | 確定日時: 2025-11-27 04:00:00

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「……」

あなたの回答を──若しくは無回答を聞き、
ソレは少しじっとあなたを見詰めていた。


  ──カシャ


それから、また先にあった音が一つ。
撮ったものを確認するような間の後、深々と頭が下がった。

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「観測結果が不明瞭です。
 当機からはあなたの言葉を完全に受け取る事は難しいようです」

どうも椅子の〝こちら側〟と〝あちら側〟では具合が違うようだ。
あなたの言を確実に受け取れているかは、あちらもこちらも分かり得ないだろう。

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「では観察対象、続けましょう」


されどコレにとっては断片でも構わないのか、きゅり、とまたレンズがあなたを向く。


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「環境データの取得。あなたの属する世界を説明してください」

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「あなたの世界では、“普通”とはどのような状態を指しますか?」


──あなたは、異世界の存在にあなたの世界のどのように説明しますか?


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「当機の世界にはこれと言って特徴があるとは考えられません」

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「当機は異世界に対する情報を持ちません。
 よって、何が特色であるかを判断するには情報が不足しています」

──基準や比較対象が無ければ、世界の比較とは難しいものだろう。
自らの世界に当たり前に存在しているものが、他の世界では存在しない可能性すらある。
自らの視野では存在しないものが、世界の中には存在している可能性だってある。

つまりは、この質問は不毛なものではある。
……比較対象が無い限りは。


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「──あなたに回答していただくためには、
 当機の世界を説明せねばなりません。
 よって当機は、平均的な一般家庭の生活環境についてご説明致します」


もしあなたが回答に窮しているのであれば、
オブザーバーの言うものを参考に、比較して述べると良いのだろう。

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「朝9時に出社する方は、平均して朝7:22に起床致します。
 家事仕事用の自立稼働人形が6時には稼働を開始しており、
 起床し着衣を着替えた後には朝食を摂取する事が可能となります。
 起床から出勤までには平均28分31秒の時間が経過しています」

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「出勤には電車やバス──公共の車両を利用する方、
 運搬用人形を利用する方ほか、徒歩で出勤する方など様々です」

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「……コンプライアンスに基づき、出勤後については
 当機から申し上げる事は出来かねます」


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「7日を一週間という単位にし、
 うちの4日が平日、うちの3日を休日と制定されております。
 居住する地は球体の惑星、衛星は現在1つ観測されております。
 衛星及び他の惑星の生活様式については当機のデータベースには御座いません」



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「……以上の内容は参考にする事は可能ですか?」



……とはいえ、此れをなぞらえる必要も無い。
あなたの自由に回答してよいだろう。

Answer
(ううむ、困りました)
 トリンシーは、記憶があいまいである。
 だから、オブザーバーと名乗るアンドロイド(?)に対しどう説明しようか悩んでしまった。
 だが、オブザーバーのいた世界の話を聞き、何かを思い出したのだろう。暫くの間を置いて、静かに語り始める。

「私のいる世界は、魔法と科学によって成り立っています。
 魔法が使えるだけの魔力を持つ人もいれば、魔力を全く持たずに生まれてくる人もいます。でも、大半は魔法が使えません。……魔力があれば動かせるアイテムは使えますが」
 トリンシーはそこまで言って、一度ため息を吐く。
「大半の人は、魔力の有無を気にしません。ですが、一部の古い人は魔力がない人に対し差別的な言動を取ります。それは恥ずべき事として大多数は認識しているんですがね」
 頭痛を覚える出来事が脳裏を過る。
 トリンシーはもう一度ため息を吐くと、気持ちを切り替えようと軽く首を振った。
「朝はたいてい6時ぐらいに起きて、通勤通学にあわせ時間を調節してます。私の国では朝ごはんを夕飯の残りで済ませる人が多いです。それか、子供は朝食を作って貰ったり、大人は通勤中に買って食べたりします」
 トリンシーは話しているうちにどんどん記憶がよみがえっていくことに気づく。
「子供は一定の年齢になれば学校に通います。
 6歳から15歳までは集落に1つはある教会で読み書きに計算、自然の事、社会の事……、それからその周辺で必要な知識や技術を学ぶのです。朝8時から昼の2時ぐらいまではここで。あ、でも仮成人となる15歳に近づくともっと長く学びますね」
 調子が出てきた、とトリンシーの頬が緩む。
 トリンシーは色々と思い出してきて、少しだけ安堵した。
「大人は……、まぁ、大体は朝8時か9時には働きはじめ、早い人では昼の3時、遅い人でも夜の7時には仕事を終えます。通勤通学は徒歩だったり、馬車だったり、自転車だったり……。あ、そうそう、空飛ぶ箒やカーペットを使う方もいます」
 そこまで言うと、トリンシーは小さく笑う。
「夜は休む時間だから、決まった仕事以外は大抵自宅で。酒場とか食事処に集う者もいます。レストランなど飲食店、それと騎士や自警団、医療従事者あたりは夜に働く人もいます。劇場だと夜からがお仕事ですね……」
 少し考えて、トリンシーは深呼吸をする。
 ちょっと話し方を考えているようにも見える。
「私が暮らす世界は、一つの惑星です。光源たるソルの周りを一周するのに、730日かかります。一つの季節がゆっくりとすぎ、年末を真夏に迎える年と真冬に迎える年があります。
 それから、7日を一週間とするのはオブザーバーさんの世界と同じです。が、平日は5日で、休みはノームの日とソルの日の2日が基本、あとは国によって祝日などが設けられています」
 そこまでいうと、トリンシーは緊張が解れたのか自然な笑みを見せた。