
『──あ、また!撮るなら言ってよ!』
レンズにまっすぐ向き合って、乾いていく目にちょうど瞬きをした瞬間だった。
シャッター音に反応して声なき声を上げる。
写真を撮られるのは慣れているけれど、今は今だしそれはそれ。
頭がカメラだし、もしかしたらあれは瞬きなのかもしれないと思ったのは
丸いレンズが再び此方に向けられてからのことだった。

『そっか、やっぱり聞こえないんだ?』
不明瞭で当たり前だ、だって音が出ていないんだから。
こんな場所だからもしかしたらと思ったけど。
残念がるでもなく、それを当然のように受け入れる。
他の誰でも同じ結果だったとは自分には知りようもないことだった。

『……こっちの世界の普通か~』
問い掛けが続くのなら、声が届かないからといって会話を止めはしない。
口をぱくぱくと身振り大きく考える仕草。

『え~っとね………わかんない!
朝起きて、ごはん食べて仕事に行って~とかは一緒かも』
どれだけ考えたところで自分にとっての"普通”が
こちらの世界の普通でない以上、判断することが出来ない。
一般的な家庭の生活は多分こうだろう、という推定の話に留まってしまう。
ここにもう一人いれば、詳しく答えられたのだろうけど。

『週に3日も休んでいいんだ……。
風邪引いてるのに毎日夜まで仕事してるのっておかしいよね?』
これについては、どんな世界であってもきっと同じだろう。
ご飯もちゃんと食べないんだよ、などと問い掛けに関係のないことを暫くは一方的に話していた。