「……皆さんが、いない」
初めての事態。
これまで一度も経験したことのない状況。
敵も味方も、指示も目的もない。
ただ、自分だけが残されている。
内部で思考ルーチンが回る
戦闘プロトコル:適用外
待機プロトコル:意味なし
撤退ルート:適用外
残る選択肢は一つ。
中心オブジェクト(白い椅子)への接触。
それが状況を変える唯一の可能性。
機械仕掛けの乙女は無表情のまま歩き出す。
金髪が静かに揺れ、胸元の大きなリボンが小さく跳ねる。
感情モジュールは平常値を指していた。
しかし、胸の奥に、ほんの0.0003%の“違和感”が生じみた信号が生まれている。
正確な歩幅で、正確な角度で、
私は白い椅子に腰を下ろした。
座った瞬間、
内部ログに一行の記録が灯った。
『観測対象:イドロ──』
初めて、
「自分とは何か」を問う回路が、
静かに、確かに、起動した。
そして、私という存在へのトイカケが始まった。