Chapter01-03

記録者: 苦労がちの迷い人 (ENo. 82)
Version: 1 | 確定日時: 2026-02-08 04:00:00

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  ──カシャ


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「記録しました。有難う御座います」

言葉と共にシャッターが下りる。
たとい先のあなたの言葉がどのようなモノであったとしても、
コレは変わらずこの言葉を吐いたのだろう。
どれだけ荒唐無稽な事を言おうと、無関係な事を言おうと、
静かで落ち着いた声は、波打つ事が無い。

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「観察対象、次の情報を取得します」

冷たいガラスのひとみが、あなたに次のトイカケを差し出した。

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「──次は簡単な思考実験を行います。
 あなたの目の前に一人の人物がいるとしましょう

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彼は明らかに困難な状況にあり、助けを求めています。
 しかし、助けるとあなた自身に損害が生じます


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──あなたはどう行動しますか?
 理由や、其れに至る思考回路を開示してください」


──あなたはこの仮定にどう回答をしますか?

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「当機には質問と観測以外の権限を持ち得ません。
 従って、この人物を助けることは不可能です」


何とも思考実験のし甲斐の無い回答ではある。
流石に此れでは回答例として参考にならないと思考したか、
継ぎ足す様に次の言葉が繰り出される。

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「この問いを考えるにあたって、あなたは複数の要素を考慮する事になるでしょう
 自らの能力、損得勘定、社会倫理、共感性、恐怖心、
 過去の経験、未来への予測、その他不確定要素……
 どの要素に重きを置き、判断するかを考えると良いでしょう」


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「思考の順序、葛藤、迷い──それらも重要な要素です。
 『まず相手の安全、次に自己の損害への憂慮・保身行為、最後に社会的評価』等の様に、
 優先順位及び時間軸での解釈の変遷は実に多様性に富むものでしょう」

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「また、其の人物が『何者であるか』も重要です。
 幼子であるのか、年長者であるのか、あるいは敵対する者か、見知らぬ存在か、親しい者か──
 立場や関係性によって、きっとあなたの判断基準は変化します。

 それらの場合でもまた、此の状況を考えてみてください」



Answer
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「あんまり突っ込まれないのは助かるよ」

回答以上の事は尋ねない。
観測者らしい振る舞いだと思った。
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「それで…次の質問か。
 私も思考実験は知ってるよ」


極端な状況を想定した、思考のみで行われる実験。
今回は自分と他の何者か二人の損益を天秤に掛けてみるらしい。
成程これも難解な問題と言えるだろう。

まずは相手を思い浮かべる。
家族、知人、見知らぬ他人、良い感情を持たない相手。
次に自分への損害を考える。
身体的損害、精神的苦痛、経済的損失、社会的信用の失墜。

これらを比べた上でどう判断するか。
思考を巡らせる合間、手にしたクリップボードの角を指先で撫でた。

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「難しい問題だが…
 余程の損失がなければ、誰であっても助けるだろうと思う」

この場合、最も簡単に差し出せる対価は身体的損害だ。
次に精神、経済的損失だろうか。
案外己の中で社会的信用は重要らしい。

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「ただまあ…家族と暮らすのに困る損失があるなら、諦めるかもしれないね」

助ける相手が家族であるなら、話は別。
ひとまずは上記を回答として終わるだろう。