
「あんまり突っ込まれないのは助かるよ」
回答以上の事は尋ねない。
観測者らしい振る舞いだと思った。

「それで…次の質問か。
私も思考実験は知ってるよ」
極端な状況を想定した、思考のみで行われる実験。
今回は自分と他の何者か二人の損益を天秤に掛けてみるらしい。
成程これも難解な問題と言えるだろう。
まずは相手を思い浮かべる。
家族、知人、見知らぬ他人、良い感情を持たない相手。
次に自分への損害を考える。
身体的損害、精神的苦痛、経済的損失、社会的信用の失墜。
これらを比べた上でどう判断するか。
思考を巡らせる合間、手にしたクリップボードの角を指先で撫でた。

「難しい問題だが…
余程の損失がなければ、誰であっても助けるだろうと思う」
この場合、最も簡単に差し出せる対価は身体的損害だ。
次に精神、経済的損失だろうか。
案外己の中で社会的信用は重要らしい。

「ただまあ…家族と暮らすのに困る損失があるなら、諦めるかもしれないね」
助ける相手が家族であるなら、話は別。
ひとまずは上記を回答として終わるだろう。