
「僕の望む結末、
僕の付ける色──」
言葉をなぞる。
消え行く輪郭を見送る。

「……忘れない、忘れないさ。
私にとって、己を見つめ返す機会となる、
良いトイカケだったよ…………」
さよならと言葉を投げて、
世界は白に包まれた──。
◇

「………………」
気が付けばいつもの執務室。
隣に柔らかな光の気配を感じて、目を開けた。

「…………シャルロ?」

「おはようなのだわ、シャル。
よく眠れたかしら?」
光の煌めく空色の瞳が、
穏やかにこちらを見ている。
王の肩にはいつの間にやら、
ブランケットが掛けられていた。

「お紅茶を淹れたのだわ。
ふたりでティータイムにしましょう!」
テーブルの上にはポットにカップ。
まるで目覚める瞬間を予期していたかのような、
手際の良さ。
礼を言って、カップに口を付ける。
心落ち着くラベンダーティーだ。

「…………おいしいよ、シャルロ」
微笑めば、王妃が太陽の笑みを返した。

「ところで僕…………夢を見たんだ」
「それでさ、シャルロにちょっと
聞きたいことが出来たんだけど…………
構わないかな?」
えぇ、と返事。
じゃあ、とシャルティオはトイカケを纏める。

「シャルロは…………」
「シャルロは、愛って何だと思う?」
誰かに明確に愛された経験のある君に、聞きたかった。
君の思う愛とは、何なのか。

「…………愛?」
きょとんとした顔。
しばしの間の後、返答があった。

「愛とは…………
相手を幸せにしたい気持ちだと
わたしは考えるのだわ」

「そのひとが笑ってくれたら嬉しい!
そのひとを笑顔にしたい!」
「それってね、愛がなければ、
思えないことなのだわ!」
わたしは、と胸に手を当てる。

「シャルには幸せになって欲しいのよ。
そしてわたしがシャルを幸せにするのよ。
だからそう……この気持ちは!」

「政略結婚とか関係ないのだわ?」
「わたしはシャルを──愛しているの!」

「………………………………」
そんな真正面から愛を語られるなんて思わなくて。
シャルティオは呆然、固まった。
自分を見つめる瞳は煌めいている。
強く鮮やかな星の光。

「だからシャル、
ひとりで背負い過ぎないように、ね?」
「貴方が悲しそうだと、わたしも苦しいの」
「愛しているひとには、笑っていてほしい」
“笑っていてほしい”。
それは、シャルティオの考える愛の形と同じものだ。

「わたし、弱いだけの、守られるだけの
か弱い女の子ではないのだわ?」
「わたしだって貴方を守るもの!
だから、時には力を抜いてほしいのよ」
その声には凛と、強い意志が宿っている。

「……………………」
彼女のことを、誤解していたのかも知れない。
シャルティオは、妻は自分が守るんだと、
ずっとずっと思っていた。
守られるだけの苦しさを知らないで。
愛する人が悩み苦しむのを見ているだけの、
その苦しさを知らないで。
『シャルロッテ姫は守られるべき存在だ』
そんな思いは、行動方針は。
もしかしたら、無意識のうちに、
彼女を傷付けていたのではないか?

「…………シャルロ」

「でも、今があまり
安全な状況でないのも分かっているのよ。
わたしは出しゃばりなのかも知れないわ?」
「だからお互い、
納得のいく妥協点を探しましょう!」
それこそが“愛”なのだろうか。
夫婦の形なのだろうか。

「…………その」
「………………ごめん」

「謝る必要なんて、どこにもないのだわ!
とりあえず、シャルロッテはね、
シャルのことが大好きなの!」
「それだけ覚えてくれたら嬉しいのだわ!」

「………………ありがとう、シャルロ」
その言葉に、その光に、
確かに救われた自分がいた。

「僕も……シャルロのこと、
大好きだから、あいしてる、から」

「これからも──
ふたりで、頑張っていこう」

「──えぇ、もちろん!」
ふたりで歩めば、きっと、きっと。
でも、とシャルロの瞳が
ちょっと鋭くなる。

「寝落ちするほど疲れていた
シャルは休むべき、なのっ!」
「休まないと許さないのだわ。めっ!」

「…………はい」
ラベンダーティーを飲み終えたら、
眠ってしまおう…………。