Chapter05-01

記録者: シャルティオ (ENo. 14)
Version: 1 | 確定日時: 2026-02-01 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

変わらぬ様子のその部屋の、ただひとつの椅子に腰を掛けると──
あなたの向かいには、まず鮮やかな赤色が揺らめくように浮かび上がる。

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「──あら。今日も来てくれたのね?」

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「それとも〝今日のあなた〟は初めてのあなた?
 一体此処の時間軸はどうなってるのかしら、本当に面白いわ」

くすくす、と透明な鈴のような笑い声。
少女の姿をしたそれは、あなたを値踏みするでもなく眺め、
こちらの反応を楽しむように言葉を紡ぐ。

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「あなたも分かっているでしょう?この部屋はいつでも
 同じところに戻る事ができる・・・・・・・・・・・・・のよ」

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「思索を重ねた後、また同じ質問に答えたいとき、
 そうあなたが望むなら、あなたはまた同じトイカケを受ける事が出来る」

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「──考えは日々変わるものよ。
 常に同じ答えを出し続ける生き物なんてきっと存在しないわ。
 今を語る、今を自覚する、そのためにこの部屋を使えばいいのではなくって?」

歌うように紡がれた言葉は、どこか甘く、どこか寂しい。
まるで無窮の眠りの中で、何度も同じ思索を拾い直してきた者の声音のようだった。

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「私はアマリエ。とある世界の吸血鬼よ。
 ずぅっと昔に封印されてるから、きっと誰も私を知らないわ」

さらりと自己紹介を流し、あなたの名前を問う事はしない。
いつかに知ったのかも知れないし、この部屋の性質を知っているが故
わざわざ訊く必要も無いとしているのやもしれない。

そうして吸血鬼は、何も迷う事も無くトイカケを紡ぎ出す。

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「私はずっと同じ事を問い続けている。
 一意に定まる答えが無いと知っているけれども、
 それでも追及する事に無駄は無いと思っている。

 あなたにとって答える価値が無いなら目を閉じてご覧なさい?
 きっと元のところに戻れるわ」

ふと、吸血鬼の紅い瞳があなたを真っ直ぐに射抜く。
その奥には、何百回も、何千回も、この思索を繰り返してきた気配が宿っている。

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「ねえ、あなたにとって──愛ってどんなもの?


──あなたにとって愛とは何ですか?
Answer
 椅子ひとつしかない、真っ白な部屋。
 またか、の思い。
 次はどんなひとに出会って、
 どのようなトイカケを投げられるやら。

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「…………シャルティオ・アンディルーヴだ。
 お前に会うのは初めてのはずだよ」

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「戻れる? そうか。
 ……頭の端に入れておこう

 名乗りに、よろしく、と返した。
 その赤い瞳を真っ直ぐに王の青が見つめたが、
 トイカケに揺れ、逸らされる。

 逸らしはしたが、目を閉じることはなかった。
 それは、己を見つめる大切な問いだ。

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「………………愛」

 お母さまに愛されなかった。
 次兄の向けていた愛には、
 いなくなった後でようやく気付いた。

 そんな自分にも、婚約者が出来た。
 彼女をちゃんと愛せるかは、まだ、分からない。
 幼少期の自分は、まともな愛を知らない。

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「……………………」

 異世界に親友がいる。
 異世界に義兄がいる。
 異世界に義父がいる。
 素敵な従者もふたり、いる。

 過ごした温かい日々は、
 向けられた感情は、愛だったのだろうか?
 「そうだ」と確信はし切れない。

 だって、ぼくは。

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「………………」

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「愛は、優しく温かいもので
 “あって欲しい”」
「これは、僕の抱く願望だ」

 ぽつぽつ、言葉を紡ぐ。

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「親が子に向ける愛も、
 恋人同士で向け合う愛も、
 温かいものである“べきだ”」

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「理想論? 綺麗事? そうかもね。
 でも僕は愛というものに対して、
 明確な答えを持ち合わせていないから……」

 お母さまにまともに愛されてさえ居れば、
 愛というものをちゃんと理解出来たのでしょうか。

 ずきり。感じた胸の痛みを。
 深呼吸して、彼方へと追い遣った。