…彼と、最後に会ったのは前日夜のことだった筈だ。
いつものように、ただ楽しく食卓を3人で囲んで、談笑したのを覚えている。ただ、何も変わらない日常が過ぎただけの日だった。筈だった。
次の日、私は起きっぱなしのまま、朝ごはんを作っていた。
布団から直接キッチンに来て。
いつものことだ。朝ご飯が終わってから身支度はすることにしているから。
でも、その日は少し違った。起きてきた茶太郎が妙にソワソワして、家中歩き回る足音が響いていた。
しばらくして、足音が止んだ。
なんだか、その日だけは妙に気になって。探しに行ってみれば。
そこには、風呂場で、立ったまま硬直してる茶太郎と。
浴槽で、うごかぬ石像のようになった、幾一の姿があったんだ。
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一つの命が、私達の手から溢れてしまったことに、ショックでしばらくはちゃんとした記憶がないように思う。
ただただ、2人で絶望して。
そうしたら、茶太郎が後を追うようにそうして、大慌てで医者を呼んだのを覚えている。
もう、その時思ったんだ。私にはどうにもできないと。
茶太郎がなんでそうしたか、分かっちゃうのが嫌で。でも分かりたかったし、分かるような気がしたから、余計に苦しかった。
そこからしばらくは、何をしてたか思い出せない。酒は…飲んでたかな、たぶん。柄にもなくたくさん買ってきて、幾一がしてたような、雑で危険な飲み方をして、眠る。
しばらくはそんな、雑な毎日を過ごしていた。
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「茶太郎………茶太郎………ッ…」
目の前で、ようやく、本当に、目を開けた彼の手を、私は痛いほどに握りしめていた。
長い、長い戦いだった。毎日、自分の選択肢に生きるか、死ぬ選択肢があったのが、本当に嫌だった。
毎日、もう彼が二度と起きないかもしれない、なんて考えに脳みそが侵されていって、1人で苦しんでは吐いていたんだ。
無茶なほどに酒を流し込んで、忘れたいと願った夜もあった。でも、意識はハッキリしたまま、頭痛と吐き気だけがおまけとして、そんなわたしを嘲笑うようについてきて。
毎日、考えた。どうするか。でも毎日、結局結論も出ぬまま、ただ時間に生かされていくだけだった。
けれど。あの日の私は、もういない。
生きてて、よかった、私。
「……………おはよう、…茶太郎…」
そう、返した声は、聞くに堪えないほどに涙と混じり、震えていた。