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記録者: 冒険者ゼイル (ENo. 231)
Version: 4 | 確定日時: 2026-02-01 04:00:00

依頼が終わった翌日でも冒険者ギルドの掲示板を見る。
けれど今日の張り紙は一際違っていた。
《古代遺跡 調査》《災厄級 魔獣討伐》
《盗賊団殲滅》《神殿の魔物討伐》

入口近くにあるせいか、紙の端が外の風でばたついちまっていた。
どれも文字がでけえし、報酬額も無駄にたけえ……。
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「今日はすんげーの貼られてんな」

オレは思わず腕を組んで掲示板を見上げる。
どれも上級パーティー向けだ。効率もいい。
まー確かに稼げる、けど……。
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(フォルテとキャロはどっか行っちまったし、
ラムズとシルトは長期の依頼でしばらくいねえし。
イデアは天界の仕事で忙しいみてえだしな…)

今6人では集まれない状況だった。ふと視線が、下に落ちる。
掲示板の一番端にある、剥がれかけている小さな貼り紙。
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《短期(6時間)》
《動物の世話》
《場所:タムタ村》
《危険なし》
《報酬:400+焼き菓子セット》
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「――なんだこりゃ??」

ふと見てしまった。
これは一人前の冒険者が受ける依頼じゃない。
でも今は見合った依頼が無い。
酒は数本買えるくらいだし、悪くないなと思っていたら。

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「……ふむ、危険なしか」

隣で呟いていたのは破壊の魔術師と呼ばれたフォルテ。オレの仲間だ。
そーいや魔術師協会の調査とかで……それは無くなったのか?
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「お、フォルテ。
それ、取るか?」

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「ああ、取る。良い依頼だと思ってな」

珍しく笑った。
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「ゼイルも受けるか?そこのでかいのよりいいと思うが」

一度貼り紙を見た。
文字は可愛く書かれている。女性が書いたのかもしれない。
報酬も大したことは無い。けれど期限は短く、内容は明確だ。
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「……効率は悪くない」

小動物大好きなコイツはすげえ嬉しそうだ。
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「え、どこがだよ」

フォルテって効率の良し悪しで判断してたっけ?
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「タムタ村はここからそう遠くはない。到着すれば移動距離が短く、衝突がない。比較的安全だ」

フォルテ、気づいてねーかもしれないけど今すげえ笑ってるぞ、顔。鏡を見せたいくらいに。
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「それってある意味、逃げにならねえ?ほらフォルテならこういうのでいーじゃん」

と言って《盗賊団殲滅》を指で示した。
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「破壊する価値がない」

フォルテは即答した。
そして、剥がれかけた貼り紙を、動物の依頼を指先で丁寧に押さえて剥がす。
知ってた。フォルテなら絶対好きな小動物の依頼を選ぶってよ。
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「ゼイル、お前もこの依頼に付き合え」

半ば強制参加だった。まあいいけど。
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案内されたタムタ村の小さな飼育小屋は、静かだった。
中には、キャロより小さいうさぎ、子羊、少し年を取ったようなヤギ。あとは猫と犬。
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「……オレらだけで世話をするのか~」

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「なんだ?嫌なのか?こんなにも可愛い動物たちの前で失礼だぞ」

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「そーじゃねえけど…冒険者の依頼っぽくねえなって」

破壊の魔術師が動物に失礼って…魔術師協会が驚かねえか?
そんなフォルテと共に中に入り、しゃがむ。動物たちは、一瞬警戒したけどすぐに寄ってきた。

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「……ふふ、判断が早いな」

うさぎが近づく。ラト族じゃないうさぎって久しぶりかも。
羊が、当然のように足元に座る。ヤギも撫でて欲しそうに見ている。
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「誤解するなよー。これは依頼だからな~?」

水を替え、餌を分け、毛並みを整えたりする。
穴あき手袋の指先が、思ったより器用に動いた…気がした。

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「ふん。破壊の必要なぞないな」

このフォルテのセリフは誰に向けた言葉でもなさそうだ。
嬉しそうなのが嫌でも分かる。
しばらくして、うさぎがフォルテの膝に乗ろうとする。
ルミナス・カーニスのローブはかなり汚れている。後でナリアに言われたりしねえのかな。
フォルテは一瞬固まり――そのまま動かなくなった。
うさぎは満足そうに目を閉じてしまった。
オレの膝にいつの間にか交代していた猫も目を閉じた。
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依頼完了後。報酬もしっかり受け取った。
本当に焼き菓子のセットがついてきた。マフィンやクッキーなど様々だ。
ギルドに戻るとシルトが待っていたみてえで目を丸くしていた。
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「わ、二人とも!本当にあの可愛い依頼に行ってきたの!?」

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「ああ、完了した。動物たちもかなり喜んでいたぞ」

あぁ『飼育係の人が』じゃねえんだ。
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「災厄級の依頼、放っといて良かったのー?まだ残ってるよ」

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「まー、急ぎじゃねーからな」

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「動物の世話の方が必要だろう?」


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「まあね。あの依頼たち、見てたけどすごいめんどくさそうだよー」

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「なあフォルテとシルト。皆が集まっててさ、まだ残っていたらあの4つの依頼の中の1つでもやらねえ?」

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「いいね」

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「ああ」

即答だった。
フォルテはポケットに何かを入れた気がした。
あれ?今アイツ何入れた?木の実っぽかったけど…。

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(ま、いっか)

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「おっし!今日はオレのおごりで酒場に行こうぜ!あ、酒場だけどシルトも行くか?」

シルトが未成年であることを忘れてた。いっけね。
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「いくいくー!ゼイルの行きつけの酒場のとこでしょ?あそこのスープ好きなんだ~」

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「三人で行く酒場も珍しいな。行こう」

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「おっしゃ!いこーぜ!!」


やっぱりどんな依頼でも依頼後の酒場の楽しみはたまんねえな。
そう感じた日だった。