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記録者: シャルティオ (ENo. 14)
Version: 5 | 確定日時: 2026-01-28 04:00:00

【過去編B】
【“改革”の裏で哭く声を】

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【1.魔局、再び】

 魔局長を倒して1ヶ月が過ぎた。
 魔局対策本部が設立され、
 改造人間たちはそこに収容された。

 彼らはどうやら魔局長によって、
 戦争の道具としても使われていたようだ。
 戦死した仲間たちもいたようだ。
 それもまたあの魔局長は、
 「必要な犠牲」と言っていたのだろうか。

 改造人間たちに刻まれた呪紋は、
 キィランの魔法破壊の力で
 解除出来ることが判明した。

 これで解除すれば
 彼らは特別な力を失うけれど、代償も消滅する。
 どうしたいかの意思を個々人に聞いて、
 キィランが対処する形になった。ただ。

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「これ…………
 私めっちゃ疲れるんですけど…………」

 魔局長との戦いの時にいた影使いの少年、
 デイズの呪紋を解除した時、キィランがぼやいた。

 キィランの魔法破壊は便利だが、
 無制限に使える訳ではない。
 複雑な術式を解除すれば、
 それだけ消耗も激しい。

 そして魔局長のこの呪紋は
 「非常に複雑な術式」に当たることを、
 魔法視の従者アルカが視た。
 だから簡単に出来ることではない、と。

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「私が疲弊すると……
 シャル様のお仕事に
 支障が出かねませんので…………」

 なので呪紋の解除は当分、
 「命に関わるものだけ」とした。
 デイズの力の代償は重篤な病魔なので、
 緊急性ありと見て解除した。
 他の人たちのは能力を使わなければ何ともないので、
 とりあえず保留。

 シャルティオ王の命を狙う者は多い。
 だから王を守れる優秀な従者キィランは、
 常に動ける状態の方が良いのだ。
 状況が落ち着くまでは、今はまだ。

 さて、そんな日々の中で
 シャルティオ王は提案する。それは、

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「魔局の跡地に行ってみないか」

 というもの。
 魔局長は死んだが、
 あの建物には沢山の資料が眠っているはずだ。
 それらを回収しに行きたいのだと王は語る。

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「……王宮魔導士に依頼すれば、
 回収ぐらいはしてくれるのでは?」

 問うキィランに、シャルティオは首を振った。

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「他の人々の手が入る前に、
 アイツの描いた理想の形を、
 魔局長の死後直後の魔局を、
 この目で見てみたいのさ」

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「…………なら、私が同行しますけど……。
 無理はされぬように、ですよ?
 貴方はこの国に必要な存在なのですから」

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「あぁ、無理はしないさ。
 トラップ類を予測して、
 魔法視のアルカも連れていく。
 それなら構わないだろう?」

 という次第で、
 シャルティオ、キィラン、アルカの3人は、
 魔局跡地へ向かうことになったのだった。

  ◇

 先頭はアルカ。
 魔局の建物の扉は開いている。
 彼女の赤い瞳が、きらり、輝いた。
 魔法視の異民族、イデュールの民の証たる瞳。

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「…………ん。
 この辺りに悪い魔法の気配はねーな」

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「トラップの類はあったみてーだが、
 以前に解除された痕跡が残ってる。
 陛下が訪問した時に切ったんじゃね?」

 とのこと。

 そのまま探索を続ければやがて、
 資料室のようなところに辿り着いた。
 そこには大量の書類が残されていた。

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「この全てを
 1日で読み終えるのは無理でしょうが……
 何か概要を掴めそうなもの…………」

 キィランが様々な資料を手に取り始める。
 そんな中で、シャルティオはとある紙束を見つけた。
 その一番上にあったものを読んでみる。


『10月2日
 リーヴとエマの間に双子の女の子が生まれた。
 イルメリアとアスエリオ、と名付けられた。
 彼女らは正真正銘、この魔局で生まれ育つ者になる。
 彼女に刻む呪紋こそが
 希望をもたらすのだと信じたい。
 彼女らは大いなる成果をもたらすだろう!』



 日記のようだった。
 アスエリオ。以前に魔局で対峙した、
 桃髪の少女の名前があった。
 『この魔局で生まれ育った、生粋の改造人間』
 魔局長の言葉の意味が理解出来た。
 ここに囚われた親から、彼女は生まれたのか。

 紙束をぱらっとめくる。


『7月21日
 アスエリオに呪紋を刻み込んだら、
 とんでもない異能が発現した。
 彼女は古代文明の遺物である金属の筒を自在に扱い、
 特別な弾を生成することが出来た。
 彼女自身の身体能力も非常に高い。
 彼女は素晴らしい“成功作”だ!』



 紙束にはそのようにして、
 様々な改造人間たちの話が書いてあった。
 死なせてしまった改造人間の話には、
 悲しみの念も書いてあった。

 魔局長は改造人間たちを慈しみながらも利用し
 時に死に追いやり、それでも尚、
 数多の屍の山を築きつつも
 理想の為に突き進める人物なのだと理解した。
 ある程度読んで紙束を置いて、

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「……隣にも何か、
 研究の部屋があるみたいだよ」

 行ってみよう、と従者たちを促す。
 こんな魔局長ならば、
 恨まれるだけではなく、
 慕われもしていたのだろうか?

  ◇