Chapter05-fin

記録者: 古閑 茶太郎 (ENo. 1)
Version: 1 | 確定日時: 2026-01-25 04:00:00

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あなたの言葉が空間に染み込むように静かに落ちていく。
吸血鬼はそれを逃さず掬い上げ、ゆるく微笑む。

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「ええ。とても“あなたらしい答え”だわ」

白い部屋の境界がふっと揺らぐ。
輪郭が削れ、床と壁の境目が淡く溶け合っていく。
まるで視界が曇るように、世界そのものが退いていく。

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「愛はね、いつだって“行き先”を自分で決められるものじゃないわ。
 でも──あなたがどこを望むかで、
 その結末に“どんな色をつけるか”は変わっていくわ」

彼女の輪郭もわずかにぼやけてみえてくる。
けれど、その赤い瞳だけは最後まで揺るがずあなたを見ていた。

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「……ええ。これで終わり。
 “今回のあなた”と話すのは、これが最後ね」

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「此処での話なんて忘れてしまっても構わないわ。
 でもいつかあなたの“愛の答え”が変わったとき、また聞かせて?」

部屋はほとんど形を失い、
あとに残るのは薄い光と、彼女の声だけ。

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「さあ、戻りなさい。
 あなたの現実へ──あなたの愛が続く場所へ」


世界が静かに途切れる。
まばたきの合間に、白が完全に消え──
あなたは夢のように白の水面からゆっくりと浮上していった。

ここトイカケはありません。回想や感想を自由に記入したりしなかったりしてください。
Answer
指先が、そっと触れた。
あたたかい、と思う間に、それはためらうみたいに絡められて、やがて手のひら同士がぴたりと重なる。

その瞬間、ひとみんの形のいい綺麗な両の瞳がゆっくりと、ゆがんだ。

(あ…………)
泣きそうなんだ、と気付く。
どうして。
なにか、悲しいことがあったの?

そう思ったはずなのに、身体は勝手に引き寄せられていた。
間近で覗き込んだ、濡れた両の瞳。
そこに映っていたのは、泣きそうになっていたのは、
ひとみんだけじゃなくて、僕だった。

隈の浮いた、不健康な顔。
泣くのを我慢しきれなくて、ぐちゃぐちゃになった表情。

「会いたかった」って、全身で叫んでいるみたいな顔。
(……恥ずかしい)

こんな顔、見せるつもりじゃなかったのに。
ひとりで抱えるつもりだった。
幾一への気持ちも、決意も、全部。
重くて、苦しくて、潰れそうでも
自分ひとりで、どうにかするつもりだった。

それなのに、今、こうして。
僕よりずっと、ずっと小さな身体が、
何も言わずに、僕を抱きとめようとしている。
そのことが、たまらなく、いとおしかった。
気がつけば、震える両腕をゆっくりと彼女の背中に回していた。
もう、離れていかないように。
どこにも一人でいかないように。

「会いたかった……ひとみん……」

声が、震えて、もうだめだった。

「ごめんね、おそくなって……
 なかなか……っ、かぇれ、なくて……っ」

言葉にした途端、胸の奥に溜め込んでいたものが、全部あふれた。
安心と、嬉しさと、
やっと辿り着けたこと、
ひとりじゃなかったって気がつけたこと。

抱き合ったまま、
僕たちは、子どもみたいに声をあげて泣いた。
ただ、会えたことが嬉しくて。
生きて、ここまで来られたことが、嬉しくて。

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そうして、ひとしきり泣いたあとに、
部屋の輪郭が、少しずつ、ほどけていくのに気がついた。
壊れていく、というよりは、役目を終えたみたいに、静かに、ぼやけていく。
慌てるように顔をあげると、
アマリエが、静かにそこに立っていた。

「さあ、戻りなさい。
 あなたの現実へ──あなたの愛が続く場所へ」

その声は、
不思議なくらいまっすぐ、胸の奥に落ちてきた。

ああ。
これで、ちゃんと帰れるんだ。
これは、終わりじゃなくて。
目を覚ますため、明日を生きるための、通過点なんだ。

そう確信できて、
僕は立ち上がり、ひとみんの手を、そっと握りしめた。

世界が途切れてしまう瞬間まで、夢が終わってしまうその瞬間まで。


繋いだ手は決して、離さなかった。