指先が、そっと触れた。
あたたかい、と思う間に、それはためらうみたいに絡められて、やがて手のひら同士がぴたりと重なる。
その瞬間、ひとみんの形のいい綺麗な両の瞳がゆっくりと、ゆがんだ。
(あ…………)
泣きそうなんだ、と気付く。
どうして。
なにか、悲しいことがあったの?
そう思ったはずなのに、身体は勝手に引き寄せられていた。
間近で覗き込んだ、濡れた両の瞳。
そこに映っていたのは、泣きそうになっていたのは、
ひとみんだけじゃなくて、僕だった。
隈の浮いた、不健康な顔。
泣くのを我慢しきれなくて、ぐちゃぐちゃになった表情。
「会いたかった」って、全身で叫んでいるみたいな顔。
(……恥ずかしい)
こんな顔、見せるつもりじゃなかったのに。
ひとりで抱えるつもりだった。
幾一への気持ちも、決意も、全部。
重くて、苦しくて、潰れそうでも
自分ひとりで、どうにかするつもりだった。
それなのに、今、こうして。
僕よりずっと、ずっと小さな身体が、
何も言わずに、僕を抱きとめようとしている。
そのことが、たまらなく、いとおしかった。
気がつけば、震える両腕をゆっくりと彼女の背中に回していた。
もう、離れていかないように。
どこにも一人でいかないように。
「会いたかった……ひとみん……」
声が、震えて、もうだめだった。
「ごめんね、おそくなって……
なかなか……っ、かぇれ、なくて……っ」
言葉にした途端、胸の奥に溜め込んでいたものが、全部あふれた。
安心と、嬉しさと、
やっと辿り着けたこと、
ひとりじゃなかったって気がつけたこと。
抱き合ったまま、
僕たちは、子どもみたいに声をあげて泣いた。
ただ、会えたことが嬉しくて。
生きて、ここまで来られたことが、嬉しくて。
そうして、ひとしきり泣いたあとに、
部屋の輪郭が、少しずつ、ほどけていくのに気がついた。
壊れていく、というよりは、役目を終えたみたいに、静かに、ぼやけていく。
慌てるように顔をあげると、
アマリエが、静かにそこに立っていた。
「さあ、戻りなさい。
あなたの現実へ──あなたの愛が続く場所へ」
その声は、
不思議なくらいまっすぐ、胸の奥に落ちてきた。
ああ。
これで、ちゃんと帰れるんだ。
これは、終わりじゃなくて。
目を覚ますため、明日を生きるための、通過点なんだ。
そう確信できて、
僕は立ち上がり、ひとみんの手を、そっと握りしめた。
世界が途切れてしまう瞬間まで、夢が終わってしまうその瞬間まで。
繋いだ手は決して、離さなかった。