白すぎて、最初は目を開けていられない。
まぶたの裏まで白が染み込んでくる。
でもすぐに慣れた。慣れてしまった。
足元を見ると、自分の影がどこにも落ちていない。
まるでこの空間が俺という存在を、まだ完全に受け入れていないみたいだ。
……怖くない。
それが自分でも驚いた。
こんな得体の知れない場所に放り込まれているのに恐怖心がない。
違う。
怖くないんじゃなくて、「怖がってる暇がない」。
だって、ここには誰もいないから。
助けを求める相手も、守らなきゃいけない相手も、
「大丈夫?」って聞いてくれる人もいない。
初めて、俺は“自分”だけの世界にいる。
右手のリストバンドを握りしめた。
擦り切れた布地に、小さな穴が空いているのがわかる。
母さんが縫い付けてくれたお守り。
「頑張りすぎないでね」って言われたのに、
俺はずっと頑張りすぎて、みんなの笑顔を最優先にして、
自分のことはいつも後回しにしてきた。
……もういい。
もう、逃げない。
逃げたくない。
白い椅子が、まるでずっと前からそこにあったかのように、
静かに俺を待っている。
一度だけ、深く、深く息を吸った。
覚悟は、もうとっくに決まっている。
誰のためでもない。
俺自身のために。
迷いなく、まっすぐに歩み寄る。
一歩、二歩、三歩。
最後に軽く膝を曲げて、勢いをつけて、
椅子に腰を下ろした。
背もたれに背中が触れた瞬間、
胸の奥が熱くなった。
これでいい。
これで、いいんだ。
そして、俺へのトイカケが始まった