
ひとみん
「……その辺はその人の育ちによる、なんてよく言うけど、伝わらなかったら、伝わるまで伝えれば済む話なのに…」
その辺りの話は、あまり好かないから答えなかった。
それに、私の中で、愛の答えがブレることは、この先もないから。
そうして、トイカケられる、最後の質問。壁の向こうでは、苦しそうな声が響いたように聞こえた。

ひとみん
「どんな結末の…愛…」
結末、と言う言葉で、頭の中によぎる、彼の姿。
それは、終わりの、その先へ行った影で。
どうしようもなく、酷く、さみしくなった。
私が見ていないところで、彼は私の前から消えてしまった。
それは、何をすることも叶わなくて。気がつけさえ、させてはくれなくて。
今では、もっと何か出来ればと後悔だけがひたすら募ってくばかりだった。

ひとみん
「アタシ…は…」
正直に言ってしまえば、愛に結末なんか、欲しくなかった、というか、いらないと思っていた。
ずっと、続くものと思っていたんだ。
でも、そう思っている時ほど、終わりって、突然やってくるもので。
嫌でも節目がついてしまうなんてことがあって。
そんなことを、考えざるを得ないような状況になることがある。
それが、今だ。
改めて、考えさせられるトイカケで。
私は、頭のなかの言語化の出来ない感情たちを掻き集めて、それを定義する言葉を探す。

ひとみん
「…アタシは、強いていえば……」
言葉に詰まる。
どう、いえば。 …わからない。
とりあえず、まとめないことには始まらないから、整理する。
私の求める、愛の行き先はどこか。
行き先、と言うのであれば、それは必ずしも、結末、では無くてもいいんじゃないか。

ひとみん
「アタシは。………多分…行く先が、見えなくても。結末が、分からなくても。
ずっと。…ずっと隣に居られる愛が、欲しい、って、思ってるの、かな」
欲しい、と言うよりかは、持ち続けていたい、と言うのが正しかった。
別に、もらえる愛はどんな軽い一言でも、私には十分で。それだけで、嬉しいことは変わらないし、それで構わない。
でも、彼を失って、欠けたピース。
そこにのしかかるように起きた、彼の、後追いは。
どうしようもなく、辛くて、心の中が空っぽになるようで。
茶太郎には、申し訳ないことかもしれない。けど、私は。
お前までこのまま居なくなるのは、嫌だって、思ったんだ。
だからかな、ただ、失わないものが欲しい。それって、たぶんすごく難しいこと、だけど。
本当に出来ることなら、もう何も失いたくない。けど、それもやっぱり難しい。
だから、せめて出来るなら。ずっと近くで感じていられる、それだけで良くって。
欲深いかもしれない、それが良いだなんて。でも、それ以外、私の頭に浮かんでくる答えは、ないのだった。

ひとみん
「だから、アタシの望む愛の結末、ってのは、最後まで、なくなってもなくならないような、そんな愛、かな」
だって。彼が逝ってしまったからと言って、この愛が無くなってしまったわけじゃない。
むしろ、胸のなかで温かさを増す日もある。
たぶん、茶太郎に対しても、そうなるんだと思った。
どれだけ強い力で引き離されたって、決して消えない、強い、愛。
私のほしい愛の結末は、最後の先まで、なくならない愛。
死に、その先があるなら、その先まで共に生きるような、そんな愛を、私は死んでも、持っていたい。
それが、私の答え。
「………もう、離さないからね。」
赤い糸の絡んだ、薬指をそっと握りしめて呟いた、その時だった。
壁が、音を鳴らして、隣の部屋との仕切りを、割いていく。
それは、まるでガラスにヒビが入るような、そんな速さで広がって。
その隙間から覗いた瞳と、目が合った。見慣れた、夕焼け色の、綺麗な瞳。
何が起きたか分からなくて、そっちを向いたまま固まる私。
そのまま、目を離せないでいた。
「茶太郎…?」
声が、重なった気がした。瞬間、軽い音と共に、亀裂が更に広がっていく。
空間の境目が、崩れて無くなった。
壁だったものが砕け去った、その先に同じように座る
大好きな、あなた。
私に向かって伸びてくる手は、部屋の境目だった場所をすり抜けて伸びてくる。
答えるように、確かめるように、こちらからも手を伸ばして、触れる。
指先の温もりは、お互いが生きていると確信が持てる暖かさで。
そのまま、触れて、絡めた指先を、離れないようにしっかり掴んだまま、引き寄せて。
私は思い切り抱きしめた。

ひとみん
「………………茶太郎。…帰ろう、一緒に。」