向こう側で、途切れ途切れに小さく響く、彼の…茶太郎の、声。
何も、言ってることすら曖昧で、ハッキリとわからなくて。けれど、聞こえるだけで、胸が少し軽くなるような、そんな感じがして、息を吐く。
安心、してる。この声に。
トイカケの先でもポツリ、ぽつりと響く声に、内容を聞くでもなくただ、響きを胸に留めていた。
静かになったところで、一間置いて。聞こえた声が、こちらにトイカケるような、尋ねるような、そんなトーンだった気がして。
…あぁ、最近、ずっと声を聞けてなかったから。嬉しさとか、色々あって、自分の都合のいい解釈になってたらどうしよう、って。
そうかな、なんて思うけれど…違ったらどうしよう。

ひとみん
「愛は自由を…奪う…?」
それって、確かにそうだけど、確かにそうじゃない、と、自分の中で矛盾が生まれた。
戻れないって、それって、いつもに人間生活や、友達関係なんかも、経験すれば戻れないものの連続じゃないのかと。

ひとみん
「…確かに、愛は時には人を縛るかもしれない。けど…、がんじがらめでいた人を自由にさせてあげるのも、愛じゃないのか?」
あちらが持論を展開してくれたそう、せっかくならと、何か考えてみる。
一通り考えて浮かんだ、一つの考え。

「愛って、さ、鎖と鍵、なんじゃないかって、思うんだよね。つけたり外したり出来る、さ。」
愛って、一種の鍵なんじゃないか。
ある時は鎖を繋ぐ鍵だったり。
またある時は、その鎖を外す鍵だったり。
確かに、愛があると苦労も、不自由も多い。二度と外れなかったりもする。
けれど、愛があるからこその自由も、どこかにはあるはずだと、私は信じていた。

ひとみん
「……愛のためどこまで…なんて言われても…」
とにかく今は、考えが纏まらなくても答える以外はなかった。目の前の彼女に問いかけられているから。
質問の内容。聞いた時は難しい、と思ったけれど…
考えてみれば、答えは一つに決まっていた。
今までも、そうしてきた事。今まで、そうされてきた事。

ひとみん
「…求められたら、その分差し出すよ。でも。」
でも。差し出したら、ダメなところもある。
それは、働いてお金を稼がないと守れないものだったり。
差し出せなくて。差し出したら、誰も幸せにならないから、切り捨てなければならないもの。
今まで生きてきて、そういうものって、意外と少なくなくて。その度に葛藤があった。けれど、今は守って良かったと思えている、そんなところ。

ひとみん
「守らなきゃいけないところ以外は、全部差し出せるよ。…守らなきゃいけないところ…っていうのは、生活とか、お金とか、健康とか。そういう、小さくても崩れたらダメなもの…かな。だって、崩れたら一緒に居られなくなって…。」
…まあ、健康面は怪しさがあるものの、それ以外は、本当だった。
ずっと、なんとか守ってきていた。もちろん、これからもどうにかしてでも守るつもりのもの。
だって、崩れたら、あなたが悲しむことになる。それって、やっぱり誰も望んでいないから。
彼の答えに、似たようで、同じようで。少しだけ違う回答が、この白い空間に響いていた。