次のトイカケが、与えられた。
──愛に伴う、不自由さをどう思うか。
その言葉を聞いた瞬間、
なぜか、胸の奥に残っていた違和感が、静かに疼いた。
問いの重さを噛みしめる前に、
ふいに、となりからよく知った声がした。
薄い、半透明の壁。
その向こうに、椅子に腰掛けた姿が見える。

「……ひとみん」
思わず、名前が零れた。
自分と同じように座り、
先ほどの自分と同じ相手に、同じ問いを投げかけられている。
その様子を、僕は透明な壁越しに、ただ見ていた。
「……アタシにとっての愛ってのは……尽くすこと、かな。アタシは」
ひとみんの声は、いつも通り落ち着いていて、
それだけに、胸の奥がちくりとした。
「相手からの話なら……なんでも、示してくれればそれでいいんだけど」
短い言葉なのに、
そこに詰め込まれてきた時間の長さが、嫌というほど分かる。
今まで、ひとみんは。
僕たちを匿ってくれて、
世話を焼いて、
身銭を切って、
何も求めずに、そこに居続けてくれた。
──それを愛と呼ばずして、何と呼ぶのだろう。
……でも同時に、
それを「当たり前」にしてしまっていいのか、とも思ってしまう。
だからこそ、
胸の奥から、どうしても言葉が溢れてしまった。

「ねえ、ひとみん……」
透明な壁に、声を投げる。

「僕はね、ひとみんにもしあわせになってほしいんだよ」
一度、言葉を探すように、間を置いて。

「きーちも、そうだし……
いや、きーちは……もう、しあわせになったけど」
喉の奥が、少し詰まる。

「でも、ひとみんは……どうなんだろうって」
壁の向こうで、
ひとみんと、目が合った──気がした。

「ひとみんは、それでいいのかな」
「愛のために、たくさん不自由になって……
それでも、笑ってるのを、僕は知ってるから」
声が、わずかに震う。

「だから……僕も、それが聞きたい」
縋るつもりなんてなかった。
答えを強いるつもりも、なかった。
それでも、聞かずにはいられなかった。
自分は、縛るのも、縛られるのも、得意じゃない。
それが、誰かの幸せに直結するとは、どうしても思えなかったから。
僕なんて、迷惑をかけるばかりで、
ひとみんの人生を、少しずつ狭くしているだけなんじゃないかって。
それでも──
もし、その不自由の先に、ひとみんの幸せがあるなら。
その答えを、
ちゃんと受け取れる場所に、僕は居たかった。
たとえ、隣に座る資格がなくても。
壁越しでもいいから。