Chapter05-02

記録者: 古閑 茶太郎 (ENo. 1)
Version: 1 | 確定日時: 2026-01-07 04:00:00

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「私はね……愛って、とても厄介で、
 でもどうしようもなく惹かれるものだと思うの。
 血みたいに温かくて、時間みたいに残酷で、
 それでいて、どんな者でも変えてしまう」

あなたの言葉を聞いて、吸血鬼はぽつりと自身の考えを零す。

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「あなたの言う事はきっと正しくて、
 それでいて間違っているのでしょう。

 明日のあなたに訊いたら、5年後のあなたに訊いたら、
 5年前のあなたに訊いたら──きっと違う答えが来るの。
 愛ってきっと、それだけ不確かな事だわ」

彼女は細い足を組み替え、椅子の背に体を預ける。
真っ白な部屋の中で、その赤い瞳だけが深い影を帯びていた。

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「そう思わない?」

軽く首を傾げて笑うと、その笑みはころころと転がるように形を変える。
無邪気にも見えて、どこか深い絶望すら含んでいるような、不思議な笑み。

やがて吸血鬼は小さく手を合わせ、軽い音を鳴らした。
その一拍で、空気がまた別の問いへと向きを変える。

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「さ、次の問いに行きましょう?
 あなたは──愛に伴う不自由さについて、どう思う?

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「縛られる側としてでも──縛る側としてでも、
 どちらでもいいわ。少し考えてみて?」


──あなたは愛によって自由が縛られる事についてどう思いますか?
Answer
次のトイカケが、与えられた。
──愛に伴う、不自由さをどう思うか。
その言葉を聞いた瞬間、
なぜか、胸の奥に残っていた違和感が、静かに疼いた。

問いの重さを噛みしめる前に、
ふいに、となりからよく知った声がした。

薄い、半透明の壁。
その向こうに、椅子に腰掛けた姿が見える。
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「……ひとみん」

思わず、名前が零れた。
自分と同じように座り、
先ほどの自分と同じ相手に、同じ問いを投げかけられている。
その様子を、僕は透明な壁越しに、ただ見ていた。

「……アタシにとっての愛ってのは……尽くすこと、かな。アタシは」

ひとみんの声は、いつも通り落ち着いていて、
それだけに、胸の奥がちくりとした。
「相手からの話なら……なんでも、示してくれればそれでいいんだけど」
短い言葉なのに、
そこに詰め込まれてきた時間の長さが、嫌というほど分かる。

今まで、ひとみんは。

僕たちを匿ってくれて、
世話を焼いて、
身銭を切って、
何も求めずに、そこに居続けてくれた。

──それを愛と呼ばずして、何と呼ぶのだろう。
……でも同時に、
それを「当たり前」にしてしまっていいのか、とも思ってしまう。

だからこそ、
胸の奥から、どうしても言葉が溢れてしまった。

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「ねえ、ひとみん……」


透明な壁に、声を投げる。

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「僕はね、ひとみんにもしあわせになってほしいんだよ」


一度、言葉を探すように、間を置いて。

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「きーちも、そうだし……
 いや、きーちは……もう、しあわせになったけど」


喉の奥が、少し詰まる。

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「でも、ひとみんは……どうなんだろうって」


壁の向こうで、
ひとみんと、目が合った──気がした。

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「ひとみんは、それでいいのかな」
「愛のために、たくさん不自由になって……
 それでも、笑ってるのを、僕は知ってるから」


声が、わずかに震う。

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「だから……僕も、それが聞きたい」


縋るつもりなんてなかった。
答えを強いるつもりも、なかった。
それでも、聞かずにはいられなかった。

自分は、縛るのも、縛られるのも、得意じゃない。
それが、誰かの幸せに直結するとは、どうしても思えなかったから。

僕なんて、迷惑をかけるばかりで、
ひとみんの人生を、少しずつ狭くしているだけなんじゃないかって。

それでも──
もし、その不自由の先に、ひとみんの幸せがあるなら。
その答えを、
ちゃんと受け取れる場所に、僕は居たかった。
たとえ、隣に座る資格がなくても。
壁越しでもいいから。