あなたの言葉聴いて、
魔女の弟子はしばらく静かに部屋を見上げていた。
先ほど見ていた方に視線が移ると、あ、と小さく零して、
あなたが視線を動かせば、部屋の端が水に滲むように消えてくのが見えたろう。

「……うーん、なるほど。あの現象……言語化するのが少し難しいですが、
多分、視覚的な輪郭と空間認識の情報が、瞬間的に再構築されているのだと思います。
物理的な消失や崩壊というよりも、知覚のレイヤーが重なり合って、境界が滑らかに溶けていく感じ……
つまり、僕たちが普段認識している『空間』というものは、あくまで脳内で組み上げたモデルであって、
この部屋はそのモデルの外側にある現象をわずかに、でも部分的に見せているのでは……」

「あっ、すみません……。
ええと、どうやらこの部屋は今回は役割を終えた……みたいな、そう言う事なのかもしれません」
やや恥ずかし気に頬を掻いて、けれども気になるのは変わらないらしい。
そわりと溶けて行く景色を見て、投げかける言葉もどことなく好奇の色が滲んでいた。

「ひょっとしたら、僕が何かの条件を満たした瞬間に、部屋が終了を決めた……?
いや、でもあなたが答えたことも絡んで……あああ、もう一回最初から整理……!」

「……ああ、でも待ってください、あの瞬間の視覚情報の変化とか、
境界の消失タイミングとか……
あれ、もしかして僕の推論が部分的に正しかったんじゃ……!」
視界がゆったりとぼんやりして、魔女の弟子は抗うように見開いて、
それでも最後にこちらをちらりと見て、ぱっと笑った。

「あっ、あっ……妙にテンション上がっちゃいました。へへ……。
えっと……じゃあ、そろそろ元の場所に戻らなきゃですね。
いや、戻ると言うより、“戻される”ですかね、たぶん」
彼は急に慌てたように視線を宙に泳がせ、
片手を振ってあなたに向かって叫ぶように言った。

「じゃあ、あの……さようなら! またどこかで──
あっ、いや、巻き込まれるのは勘弁ですけど、
お会いできたら……その時はよろしくお願いします!」
そんな声は反響もせず、目覚めるように夢幻のなかに。
それで、次に瞬きした後には。
あなたはあるべきところに戻っていたのだろう。
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