Chapter04-04

記録者: 古閑 茶太郎 (ENo. 1)
Version: 1 | 確定日時: 2026-01-07 04:00:00

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「……なるほど」

そういう考え方もあるのかも知れません、と
魔女の弟子は得心が行ったように目元を緩めて。

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「……でも、そうなると──
 この部屋が“何のためにあるか”よりも、ひとつ気になる事が出てきます」

目を上げる。その瞳はどこか試すようで、同時に怯えも混じっていた。

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「僕たち二人が、どうして“選ばれた”のか。」

少し居心地悪そうに、しかし正面からあなたを見つめていた。

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「僕は……分かりやすい理由があります。
 魔女の弟子で、“余白”とか“境界”に関する魔術に関わってますし。
 こういう現象に巻き込まれることも、まあ……そういう縁も有り得るかな、と」

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「でも、あなたは……どうなんでしょう?」

魔女の弟子は言葉を選ぶようにして続ける。

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「失礼な意味じゃないんですが……
 あなたが“ここに呼ばれる理由”って、なんだと思いますか?

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「性質? 心? 世界線の違い?
 ……あるいは“誰か”との縁? 波長?」


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「──あなた自身は、どう感じますか?
 この部屋は“あなた”をなぜ呼んだんでしょう


──あなたは何故この部屋に呼ばれたと思いますか?
Answer
茶太郎は、質問を受けてすぐには答えなかった。
弟子の視線を受け止めたまま、今度は足を動かすのをやめて、静かに立ち止まる。

白い部屋の中で、自分の輪郭だけが、妙にはっきりしている気がした。
考える、というより。
思い出す、に近い間。

それから、少し困ったように笑った。
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「……正直に言っていい?」


一拍置いて、弟子の返事を待つでもなく続ける。

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「僕ね。“呼ばれる理由がある側”の人間だとは、あんまり思ってないんだ」

自嘲ではなく、事実を述べるような口調。
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「特別な力があるわけでもないし、  使命とか、大義とか……そういうのとも、縁が薄いしさ」


視線を落として、白い床を見つめる。

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「ただ……うまく“終われない”って自覚はある
 諦めきれない、っていうのとも違うし。
 前に進みたい気持ちはあるんだけど……いつも、途中で立ち止まっちゃう」


顔を上げる。その表情は、どこか照れくさそうで。
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「考え続けちゃうんだよね。  
“これでよかったのかな”とか、
 “別の選択はなかったのかな”とか」

一度、言葉を探すように唇を噛む。

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「だから……この部屋に来た理由を挙げるならさ」

ほんの少し、声が静まる。

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「“境界に関わってるから”とか、“波長が合ったから”じゃなくて……
 たぶん、“まだ答えを探してる途中だから”なんじゃないかな」

弟子を見る。逃げずに、目を合わせる。
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「終わったふりはできるけど、本当には終わってない人間。
区切りをつけたつもりで、ずっと考え続けてる人間」

小さく笑って、肩をすくめた。

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「……たぶんね。  この部屋、そういう人を放っておかないんだと思う」

白い空間を見回して、最後にぽつりと。

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「選ばれた、っていうより……  
 “まだ歩いてる途中だろ”って、捕まえられただけ、かな」

冗談めかした口調の裏に、否定しきれない実感が滲んでいた。
その言葉を口にしてから、少し遅れて。
自分の中に、妙な感覚が落ちてくる。
ここに居る限り。
少なくとも、“ここに居る僕”は、死ぬことを許されていない。
(……死ぬ、っていうか)
消えることが、できない。
胸の奥で、言葉にならないまま、そう理解してしまった。
終わらせる、という選択肢そのものが、最初から用意されていない感じ。
現実世界の自分が、今どうなっているのかは分からない。
眠っているのかもしれないし、気を失っているのかもしれないし、
もしかしたら、何事もなかったように日常が続いているのかもしれない。
この“僕”と、向こうの“僕”が、どこまで連動しているのかも分からない。
でも。

(少なくとも……)

この白い部屋の中で、
こうして問いを投げられて、
考えて、答えて、言葉を紡いでいる限り。
これ以上、「死ぬ」なんてことは、できようもなかった。

逃げ場がない、というより。
“終点”が最初から塞がれている、という感じ。

(……だから、かな)

問いを投げられるたびに、
少しずつ、少しずつ、考えさせられる。
立ち止まることはできても、
考えることを、やめさせてもらえない。

(“まだ歩いてる途中だろ”って……)

捕まえられた、という言い方は、
案外、的外れじゃなかったのかもしれない。
この部屋は、
終われない人間を、
終わらせないまま、ここに留め置く。

優しさなのか、残酷さなのかは、まだ分からない。

でも少なくとも。

(……考え続けることだけは、許されてる)

そう思った。
だから、今は。

答えが出なくても、
ぐちゃぐちゃでも、
途中でも。
問いを受け取って、
言葉にして、
また次へ行くしかない。

この部屋が、そういう場所である限り。