茶太郎は、少しだけ視線を彷徨わせてから、白い床に映る自分の影を見下ろした。
考えているというより、感覚を探っているような間。
脚をバタバタとさせれば、影もゆらゆらと揺れる。
ソレを眺めながら、ゆっくり。水中にある石を拾い上げるように言葉を紡いでいく。

「正直に言うとさ。
“目的がある場所”っていうより……
最初から、“置いていかれる前提の場所”って感じがするんだよね」
ちいさな呼吸音。そして軽く肩をすくめる。

「何かをするための部屋、というよりは……
何もできなくなったひとが、
ひとまず“置かれる”場所、みたいな」
白さを見回して、ぽつりと続けた。

「考えるしかないでしょ、ここ。
逃げ場も、役割も、次にやることもなくて。
……残るのは、自分が何を考えてるかだけ」
一度言葉を切って、少しだけ声を落とす。

「だから試験、っていうのとも違う気がする。
“試されてる”ってより……
"隠してきた考え"だけが剥き出しにされる場所、っていうか」
弟子の方をちらりと見て、首を傾げた。

「誰かが反応を見たい、っていうのは……うん、分かる気がする。
でも、悪意とか好奇心だけじゃなくてさ」
ほんの一瞬、真顔になる。

「……『それでも、ここで何かを考え続けるか』
それを見たい場所なんじゃないかな、って思った」
また、照れたみたいに笑う。

「…ほら、僕ね。
放っとくと、永久に自問自答しちゃうタイプだから……
だれかから問いを与えられて、区切られた時間でソレに答えて。
終われば、おしまい。
どんなに苦しくても、次のトイカケになったらリセットしてもらえるから」
白い部屋に、冗談とも本音ともつかない言葉が落ちる。
返事はない。
けれど、否定されなかったことだけは、分かった。

「この部屋は……
“まだ終わってないひと”を、終わらせないための場所。
……そんな気が、する
少なくとも、僕にとっては。
この部屋は、そう働いてるとおもう」