Chapter04-02

記録者: 古閑 茶太郎 (ENo. 1)
Version: 1 | 確定日時: 2026-01-07 04:00:00

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彼の視線は壁へ、床へ、そしてあなたへ。
どこかで落ち着きどころを探しているようだったが、
それは“怖がり”というより“状況を整理しないと落ち着かない”という
彼の性分そのものに見えた。

魔女の弟子はあなたの答えを丁寧に聞き取った後、
目元にわずかな影を落として考え込んだ。

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「有難う御座います。
 ……参考にさせていただきます、うちの師匠が
 この部屋と似たような事をやらかしかねないので……」

……どうもこの魔女の弟子は苦労人らしい。
破天荒な魔女に振り回されているタイプの弟子なのかもしれない。

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「……もしよければ、もう少しだけ質問をしてもいいですか?
 またいくつか問い掛けないといけないようなので……」

何かを確かめたような視線の動きの後、そう口にした。
どこかに〝猶予〟が記されでもしているのだろう。

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「僕……こういう“空間の乱れ”みたいな現象には何度か遭遇してきたんです。
 主に師匠の……ああ、いえ、魔女の実験の副作用なんですが。
 でも……今回のは、それとは“質”が違う気がするんです。
 形は似ていても、根本が違う……というか」

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「……異なることわりと接触する橋の上に居るような、
 世界のあいだにいるような、そんな……」

そこまで言って、息を呑む。
それは不安や恐怖を呑み込むような仕草にも似ていて、
けれどもそれを貪欲に知りたがる様な研究者的な好奇も滲んでいた。

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「あなたは今までこうやって──
 異世界と接触するような状況に遭った事はありますか?
 ……無かったら、この部屋で他人と出逢うことに……どんな気持ちを抱いてますか


──あなたは異世界に関わりを持ったことがありますか?
──また、この部屋での邂逅をどう思っていますか?


Sample
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「……似たような経験はしてると言ってますけど、
 実のところ異世界と交信みたいなことは経験が無くて……。
 まさかこうして異世界と関わりを持つなんて!」

魔女の弟子は指先をそっと胸元へ寄せる。
息を整えるように、深くひとつ吸って──それから微かに笑った。

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「こうやって断片的にだけでも話せて、楽しい反面……怖いです。
 “未知”って……危険とは限りませんけど、油断も出来ないですから」

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「僕は……きっと異世界に関わるような事があったら、
 怖いと思いながらも……関わりたくなっちゃうとは思います。今みたいに。

 『魔女の弟子』だという外聞が無くなって『ただのアルヴェン』である場所でも、
 きっと僕は、『魔女の弟子』であることを喧伝しながら、異世界に関わるんでしょう」

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「……思った以上に僕、
 『魔女の弟子』である事に誇りを持ってるみたいです」

あんまり参考になる意見じゃないかもな、と恥ずかし気に頬を掻いて、
あなたはどうですかと改めて魔女の弟子はあなたにトイカケを差し出した。
Answer
そうして、彼とのはじめてのトイカケが終わると。
アルヴェンは、何もないはずの空間を確かめるように、ゆっくりと視線を動かした。
まるで、そこにしか見えない何かを、一つひとつ確認しているみたいに。

「……もしよければ、もう少しだけ質問をしてもいいですか?
 またいくつか問い掛けないといけないようなので……」

どうやら僕には見えない項目が、どこかに表示されているらしい。
視線の動きだけで、それが“そこにある”とわかってしまうのが、なんだか癪だった。
同時に、少しだけ安心もしてしまう。
少なくとも、無作為に傷つけられているわけじゃない、という証拠でもあるからだ。

この部屋の仕組みは、相変わらずほとんどわからない。
けれど、不思議なことに。
少しずつ仕様が見えてくるにつれて──
胸の奥に張りついていた不安が、ほんのわずかだけ、ゆるんでいくのを感じていた。

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「異世界を繋ぐ橋……みたいなってこと?」

どうやらこの部屋は、異なる世界に属する者同士を繋ぐ役割を持っているらしい。
……そう考えた途端、理解できた気がして、
同時に、ますますわからなくなった。

少なくとも。
ずっとここに居続けたとしても、幾一には会えないのだろう、ということ。
それだけは、妙に確信めいて、すとんと腑に落ちてしまった。

期待していなかった、とは言えない。
けれど、期待してはいけない、とも、ずっと思っていた。

それから、もうひとつ。
異世界の者同士を繋ぐ場所なのだとしたら──

「知り合い」つまり、ひとみんと出会える可能性は、おそらく無い。

そういう“現実”も、
遅れて、しかし確実に、胸の奥に沈んでいった。


次のトイカケは、
異世界と接触するような状況に遭ったことがあるかどうか。
もし無いのなら、
この部屋で、まったくの他人と出逢うことについて、
どんな気持ちを抱いているか、というものだった。

アルヴェン自身は、どうなのか。
彼は、楽しさもあり、怖さもあり──
それでも、自分を「異世界のニンゲン」であり、
「魔女の弟子」であると、
どこか誇らしげに語るだろう。

その声色から、
この問いに対して、彼なりの立場や物語を、ちゃんと持っているのだとわかる。
そういう人なのだ、ということが、
言葉の端々から、自然と伝わってきた。

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「僕は……あんまり楽しくはないかな」

元来、色々と考えすぎてしまう性質だ。
トイカケられた言葉の数々から、幾一との想い出を拾い上げては、
自分で自分を責めて……
わざわざ傷をなぞるように、苦しくなる。
そうなるとわかっていても、記憶の反芻をどうしても、止められずにいた。

ただ今回は……
自分自身ではなく、この「部屋」に対するトイカケだったから。
好奇心や興味がそちらに逸れていて、
今までに比べれば、だいぶ心を保ったまま、会話を続けられていた。

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「何回も、人のこころにずけずけ踏み込まれて……  
……いや、大体は僕の精神状態が悪いから、余計に、なんだけど  
 ふつうに、辛いし、もうやめたい」


言葉にしてから、少し遅れて、
自分がどれだけ弱音を吐いているのかに気づく。
でも、止めなかった。

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「だけど……だけどね
 今まで、誰も、そうやってトイカケてくれなかったから
 自分の中で、ぐるぐる淀んでいたモヤモヤが……
 トイカケで、水面に石を投げ込まれたみたいに、
 少しずつ、形を持ち始めた気がするんだ

 だからさ……
 悪いことじゃないのかも、って、今は思ってる
 異世界の人になら、どう思われたって、
 これっきり、だろうから」

そう。
よくも、わるくも、これっきりで。
僕がどんな醜態をさらそうと、
相手に余計な責任を背負わせることもない。
彼は彼で、この先、
僕の知らない世界で、
きっと、彼なりのしあわせを見つけていくのだろう。
そして、僕の闇は。
誰かに引き取ってもらえるものでも、
共有して軽くなるものでもなくて。
結局のところ、
最初から最後まで──
僕だけのものであることには、変わらないのだ。