ある世界、ある場所。
巨大な昆虫たちを祖にする亜人、蟲人の国家「蓼食」という国があった。
虫の因果かなにかか、
隣に座す鳥人の国は執拗にこの国を、住人を狙い続けた歴史がある。
そして難儀なことに、祖先が虫であるからこそ
蓼食の者は大きな翼に慄く本能を持っている。
けれど討って出れぬ訳ではない。
鳥人には翼あれど生来腕がない。
蟲人たちはその点、翅と腕を両立し、
空の上で、時には地上で武器を、道具を扱えた。
それに加え、肉食の昆虫を祖とするものは
絶大な戦闘力を誇る一族とされるものが多かった。
だがしかし、良いところだらけとはいかぬのが世の常。
肉食の昆虫たちはあまりに我が強く、
彼らだけで組織的に動くことはできなかった。
だからこそ稀なる才は必要だった。
もともとは肉食に非ず、それでいて高名な武芸家の跡取りであり
軍部に身を置き、働くことを幸福と感じるような
統率の才を持つ「炎天の将」は。

「……はあ」
その「炎天の将」こそこの蝉の青年、夏揺響。
が、まあ稀なる才である以上負担は大きい。
激務に次ぐ激務だ。
他にこなせる人員が少なすぎる故疲労は否応なく溜まるもの。

「流石に少しだけ……仮眠、取るか」
むしろちょっとは仮眠を取らないといけないくらいには
この蝉、自然に仕事中毒をやらかしている。
大佐という立場から
敵襲に備えるため滅多に武装を外すことはないが、
今このときくらいは。そう思いほぼすべて武装を外して
少しだけ、と瞼を閉じる。
少し経てばまた、仕事が始まる。
別に嫌ではない。当たり前の、己の誇りなのだから。
そのはず、だったのだ。