
「変わること…………?」
ふむ、と思考しつつ。
お前は、色々と迷い、惑ってきたんだな。
思い当たるものがひとつ、ある。
それは傷と痛みに満ちた記憶だ。
掘り起こせば、未だ痛みが走るものだ。

「………………」

「…………それを話すには、
暗い話になるということを
先に言っておこうか」
痛みの記憶と感情を、思い出せ。
王は、少年は、語る。

「…………私はそもそも、
親にまともに愛されたことがない。
いつも殴られて怒鳴られてが茶飯事だった」
「子供の頃の私は、地下牢に幽閉されていた」
フラッシュバック。罵声と暴力。
“出来損ない”と呼んで傷付けてきた母王の姿。
そんな目に遭いながら、それでもと抱いてきた悲痛な想いは。
それなのに、と語る、語る。
目を伏せた。

「そんな親なのに…………僕は……
それでも……あいされたいと、ねがっ、て」
痛みの記憶を呑み下す。
常は平然と振る舞ってこそいるが、
未だ、どうしても“過去の傷”にはならないものだ。

「…………後に、兄さんが、
そんな母さんを殺して国賊になって、
私を呪縛から解き放った」
「それなのに、私は」「僕は」
訣別の日を、思い出す。

「…………母さんからの“愛”が間違っていると、
頭では理解出来ているのにさ」
「それでもどうしてもあの人に愛されたかったからこそ、
殺しという手段でその機会を永遠に奪った兄さんを、
激しく憎んだんだ」
自分を本当に愛してくれたのは、
その兄の方こそだったのに。

「頭では理解しているのさ。
母さんは“正しくない”ってこと」
「兄さんの成したことこそ、
“僕”の救いになっていること」

「…………でも」「それでも」
未だ癒えない傷痕が、血を流す、血を流す。

「自分は…………母さんを、心から憎み切れないよ。
あんな人でもあの人は確かに憧れの人であり、
だからこそ認められたいって足掻いていて」

「…………その憎悪を完全に肯定してしまったら、
これまで牢獄の中で足掻いてきた自分は、
どうなるんだよ」
「母さんを信じて、想ってきたあの日々は」
変わりたいのに、変われない。
それでもそれでもどうしても、子供は母の愛を求めるものだ。

「……割り切れたらきっと、
楽になるのだろう」

「けれどそうしたら、
大切なものを捨ててしまうような、
そんな恐れも抱いているのさ」
いくら、“王”として振る舞えど。
根っこは、臆病な少年だから。
だから、と結論を出す。

「……無理に変わる必要はないと、
私は、考えているよ」

「変わろうと思う自分も
変わりたくないと留まる自分も、
どちらも“自分”なのだから」

「どちらの“自分”とも、
同居していれば良いのさ。
今は釣り合っているんだろう?」
自分は、そのようにしている。
親に愛されたかった幼い自分のことも、
否定はせずにその腕に抱えて。

「“変わりたい自分”と
“変わりたくない自分”の
釣り合いが取れなくなったら…………
その時こそ、決断すれば良い」
どちらを切り捨てたなら、
自分が最も満足いく結末になるのかを。

「だが、“その時”は少なくとも今ではない。
ならば無理して変わる必要なんてない」
「幾らでも悩んで迷って藻搔いて苦しんで、
その果てに何か掴み取れたなら…………」

「…………これが、私の答えだ。
参考になったかな、シロ」