約1000年前、曾て居た世界で彼は罪人に対する執行人に従事していた
嘗て居た世界のある村にて赤子の時に拾われNowhereという名前を与えられた彼は『かくあれかし』と育てられてきた
彼にとってそれが、それだけが生きる理由であったしそれ以外の生き方を知らなかった
何より村人達が己やその行いを忌み嫌おうとも彼は拾って育ててくれた彼等に報いたいが為に、正義の為にとそうした
当時その村では魔女裁判、或いは魔女狩りというものが流行っていたのも彼にとっては不幸であった
碌な証拠も証明もないその時代に於いて冤罪というものは当然有り
彼はそれでも裁判による結果を元に執行し続けた
執行人にとって裁判の結果は正しいと思うのは当然であり其れに異を唱えるなど到底許される事ではなかった
そうしたならば最悪の場合、魔女の手下として糾弾される事だってあり得た
そんな生き方をしてきた彼は本物の魔女により村を、其処に住まう人々全員を滅ぼされ自分は不老不死の呪いを受けて呪われる事となる
理由は彼女が義娘として育てていた人間を魔女として処刑したことによる復讐
其れを知った彼は己の行いを深く悔いた、それが彼の自己肯定感の無さに繋がっている
そしてその際、時空の裂け目により異世界に飛ばされたが故に彼は何も知らない世界を唯一人、彷徨い歩く事になった
死ねぬまま記憶を溢しながら、魂や心が磨耗しながら
幾星霜を経て尚、生き続けてきた彼は名前も記憶も殆ど喪っていた
そんな彼にあったのは『処刑人』であった事だけ
彼はその残っていたものを掻き集め、1つの在り方を作り出した
それがδήμιοςであり其れから数百年もの間、彼は時空の裂け目に飛ばされた後でも、ある武闘の世界に飛ばされた後でも最初こそ処刑人としてその在り方から外れることはなかった…のだが
彼はあの世界で『本当に欲しかったもの』を既に得ていた
嘗ての故郷でのように忌み嫌われるなんて事はなく
一人の人間として過ごせたフラウィウスの酒場での日常
酒場の皆との戦いや交流
夢見ていた其れはある者の主張通り、確かに誰かからの『かくあれかし』によるままごとで紛いものであったのかもしれない
それでも彼はあの世界で名を馳せる事で果たそうとした処刑人の在り方の確立よりも欲しかった日常、幸せは確かに其処にあったと感じたし得ていた、つもりだった
けれど、ある出来事を境に愛が分からなくなり
その時には処刑人である事の執着を止めてしまった彼は破綻、精神崩壊へと至り
唯一無二の友人との約束を果たし、果てを独り探すだけの幽鬼に成り果てた
今の彼に愛や人間性はない
あるのはどの様な形であれ友との約束を果たすという呪いと嘗ての故郷の村人達に対する晴らしようの無い憎しみ、裏切られたと思ったある人物への失望、そして己の人生の終を"時空の裂け目に巻き込まれた己をこうなるまで救うことの出来なかったと考えている終の存在"を利用してでも飾るという決意のみであった
誰が何を言おうとも
誰がどう足掻こうとも
Noah・Itudnott"という新たな名を与えられたとしても
全ては終わった物語だ