慣れたはずの白い部屋、しかし何か違和感を感じながら首を傾げ、イスに腰を下ろしただろう。
そうして向かいに現れた黒い影に目を見張り、思わず驚いて一度席を立つ。
イスごと消えた向かいの気配を確認して、そういうものだったと思い出し、一瞬迷った末もう一度腰を下ろした。

「ごめん、こっちに座ったのは初めてだったから、びっくりしちゃってさ」

「えーっと、そっちにいるの、誰なんだろ? キューさん? シロちゃん? あ、うちアマリエちゃんに聞きたいことあったんだよね」
今回はこちらが問いかけをする側だとなんとなく理解してから、ふっと思い出した様子で言葉を続ける。

「アマリエちゃん、きっと好きな人がいるんだよね? その人はどんな人?」

「うちの勘違いだったら、好きなタイプ教えてよ。恋バナの続きしたかったんだよね」

「うちは好きな人はいないけど、好きなタイプは頭が良い人かな。色々教えてもらったり、うちが話すこと分かってもらえたら嬉しいと思うから」

「世界を超えた恋バナなんて超貴重な体験じゃん? 答えてくれたら嬉しいなー」
屈託無く笑いかけて、聞きたいことを聞ければ興味深そうに耳を傾け、話してくれてありがと~、とお礼を行って消えていくだろう。
椅子に座りと立ちとを繰り返したあなたを見て、
吸血鬼はくすくすと笑いを零す。
椅子の位置が逆である事に此方は直ぐに気づいたらしく、驚きは
あなたが驚いている間に終わってしまっていたらしい。

「ふふっ、前みたいにリエちゃんと呼んでくれていいのよ?
確かに恋バナをするなんてとっても貴重だわ」
あなたの気さくな様子に吸血鬼もまた楽し気にして、
それから、懐かしい昔を思い出すように遠くを見る。

「……人間の男だったわ。あなたよりもうちょっと年上だったわね。
髪も髭もぼさぼさで冴えない見た目の男だったんだけど、
私が吸血鬼だって知っても……物怖じしなかった」

「……彼は吸血鬼ハンターだったの。
でも私はそんな事知らなくて、ただの人間だと思っていて……
たったそれだけの事に、すごく嬉しくなってしまった。
吸血鬼だと知って怯える人とか、化け物扱いする人ばっかだったのだもの」
自嘲と後悔、そしてどこか切ない面持ちをして、
首を傾げるのに合わせてさらりと金髪がこぼれる。

「何度も彼は訪れてくれた。
ほんとうに素敵な時間だったわ。
……彼と過ごす何でもない時間は、楽しかった」

「……何年前の事だか、私にはもう分からないのだけどね。
他ならぬ彼に封印されて、今……こうなっているから」
吸血鬼ハンターに目を着けられ、絆すつもりで交流をされたのだろう。
この吸血鬼はまんまとその思惑に嵌ったのだ。

「……彼が私を滅ぼさなかった理由が、ずっと気になっているの」
それは殆ど独り言のように紡がれるそれは、
見た目相応の幼さをはらんでいた。
……それからぱっと顔を上げてあなたを見るのは、元の調子の吸血鬼だった。

「ふふっ、実は私って恋愛経験は乏しいの。
だからあなたや──色んな人から愛の話が聴けて興味深かったわ」