
「シロ、あなたには、心から信頼できる相手はいますか?」

「──いえ。いるのなら、いいのです。
ただ、私にはそれが、少し気がかりだったもので」

「……」
トイカケを受けた女はというと、驚いた様子で椅子の向こう側の──あなたを見ていた。
それから記憶を思い返すような仕草が入って、視線が惑う。
まるで自分がしでかした、何か、恥ずかしい事を誤魔化すみたいな動きだ。

「…………………クロ、」
それはあなたの問いへの答えでは無いだろう。
ただ椅子の向かいに居たあなたが何者かに気付いての、言葉だ。
……それからわざとらしく咳払いをし、不器用に口元に弧状を描く。
この部屋の仕組みを知っているからこその、切り替えなのだろう。

「……心から信頼って、難しい話だね。
ウチは、さ。なんだろ、あんま自分に自信って今んとこなくて……。
色んな人と関わりたいとは思うけど、
独りよがりになって無いかってずっと心配で……」
また前していたように、髪をゆるく手が弄り始める。

「……仲良くしてくれてる子は、いるよ。
愚痴を聞いたり、聞いてくれたりする子は、居る。
全く心配しないで付き合えるってワケじゃないけれど、
話してる間は楽しい子たちは、ちゃんと居る」

「……だからきっと、まだ居ない。
心から信頼できる、って自信を持って言える相手は……いないかも」
順序だてて言葉を積み上げた上に出て来た、
行き所の無い迷子の様な言葉をひとつ、こぼして。

「……いつかできたらいいとは、思ってるよ。
人間って、一人で生きてくのは難しい生き物なんだしね」