Chapter06-04

記録者: ミラ・ステラウィッシュ (ENo. 144)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-24 04:00:00

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あなたの答えを聞いたあと、
墓守はしばらく何も言わなかった。

白い部屋の静けさが、
ほんの少しだけ深くなる。

揺れながらも消えない蒼い灯は、
まるで夜が呼吸しているようだった。

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「“続き”をどう思うかは、
 きっと君がどれだけ死を近くで見てきたかにも
 関係している」

最初の、距離の話とも繋がるだろうねと添えて、言葉を続ける。

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「死は、概念のままでいるうちは扱いやすいものだろう。
 言葉に出来るし、考えとして整理する事も出来る」

カラン。

けれど、と前置くように、
カンテラがと小さく鳴る。

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それが“自分の傍”に立った瞬間──
 死は、途端に重さを持つ

夜色の瞳が、ゆっくりとあなたを見上げる。

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「君は──死を、見つめた事があるかい?

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遠くの概念としてじゃなく、
 自分や、誰かのすぐそばにあるものとして



──あなたは死を見つめた事がありますか?



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「死というものは、
 考えるより先に“触れてしまう”事がある」

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「誰かを失った時。自分の命がほどけかけた時。
 眠りと目覚めの境目で、これはもう戻れないのではないか、と感じた夜」


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「そういう瞬間にね、
 死は概念でも物語でもなくなる。
 そうして死を直視する──それが、見つめるという事だ」


墓守はそこで言葉を切り、
逃げ道を用意するように、穏やかに続けた。

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「嗚呼、勿論。思い出したくないなら、
 無理に答えなくてもいいよ」

Answer
ともに静けさを味わい、墓守の言葉を待っているだろう。
彼の答えに、少しだけ首を傾けて微笑む。

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「そうね。私はあまり死を身近に感じてはいないから、全てがぼんやりと形がないわね」

カラン、とからっぽな音が白い部屋に響いただろう。
次の問いに夜色の瞳を見つめ返した夕日色は、そのまましばらく沈黙していた。
見つめ合ったまま、重い沈黙が部屋を満たしていく。
ようやくそれを打ち破ったのは、艷やかな唇からだった。

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「正確に言えば、幸いなことにまだないわ。私はまだ誰も、死に大切な人を奪われたことはないの」

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「けれどね、もしもそうであった方がまだ、気持ちの置きどころがあったでしょうに、と思うこともあるの」

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「贅沢な話ね」

僅かに自嘲の色を含んだ声が低く部屋に響き、消えていくだろう。
再びの沈黙の中、ふと夕日色の視線が脇にそれ、床へと落ちる。
そのままこぼすようにポツリと言葉が紡がれる。

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「死を見つめる瞳を知っているの。もうそれしか映すものを失った瞳を」

だから隠してしまったの。
口の形だけがそう動き、沈黙が部屋を満たす。