次のトイカケは──
だれかに期待されたことはあるか。期待されることをどう思うか。
だった。
シロはどうやら、親や先生、周りの人から期待をされていたらしい。
どの程度のものかはわからないけれど、
「期待」という言葉は、言い換えれば
「こうあってほしい」という願望の押し付けでもあると思う。
もちろん、素直に受け取るなら、
それだけ気にかけてもらっている、ということでもあるのだろう。
──自分には、なかったものだ。
だからといって、
無かったものを持っているシロが羨ましいとは思わなかった。
期待が、必ずしも救いにならないことを、僕は知っているから。
幾一も、親からの期待に応えられない自分を、よく責めていた。
頑張りたくても、頑張れない。
やろうとしても、成果が出ない。
大切にされていることは、ちゃんとわかっていた。
恩に報いたい気持ちも、確かにあった。
それでも、何も成せない自分が情けなくて、
腐って、酒に溺れることを、ひどく後ろめたく思っていた。
それでも、きっと。
親御さんは、生きていてほしいと思っていたのだと思う。
そんな月並みな言葉ですら、
当たり前に向けられているはずの期待が、
彼にとっては重たく、重たく、のしかかっていた。
このトイカケに、
どこまで答えるべきなのか。
あるいは、何も言わないほうがいいのか。
僕には、わからなかった。

「僕は、期待してくれるような人、居なかったからな……わかんないや」
結局、また。
はぐらかすような言葉しか、口にできなかった。

「期待されないことは、自由で、そして……ちょっと肌寒いよ、それだけ」
幾一やひとみんになら、期待されたかった。
気にかけてもらって、
こうしてほしい、こうなってほしいと願われたかった。
……でも。
その考えが浮かんだ瞬間、
ズキ、と頭の奥が痛んだ。
期待されて、なかった?
本当に?
胸の奥を探るみたいに、記憶を辿る。
「ちゃたは、生きて」
不意に、幾一の声がよみがえる。
何かを諭すでも、励ますでもない、
ただ、当たり前みたいに言われた言葉。
「起きないと、大好きな苺ぜんぶ食っちまうぞ」
今度は、ひとみんの声。
からかうみたいで、やさしくて、
逃げ場を塞ぐような、日常の一言。
その瞬間。
胸の奥で、何かが、かちりと噛み合った。
──ああ。
期待、されてなかったんじゃない。
「ちゃんと生きろ」とも、
「立派になれ」とも言われなかった。
ただ、
ここに居ろ。
明日も居ろ。
それだけを、置いていかれていた。
生きていてほしい、って。
それはきっと、
役に立つとか、報いるとか、
そういう条件付きのものじゃなくて。
存在そのものに向けられた、
いちばん重たくて、いちばん静かな期待だった。
気づいた途端、
胸の奥が、じわじわと熱くなって。
……なんだ。
ちゃんと、あったじゃないか。
そう思ったら、
また、少しだけ、頭が痛くなった。