Chapter03-02

記録者: 新庄 瞳 (ENo. 201)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-21 04:39:12

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返事が返ってくれば、おー、なんて緩い声。
女は椅子の背もたれにだらりと寄りかかり、片手で髪を弄る。
視線だけはあなたに向いているが、どこか遠くを見つめるようでもあった。

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「ねぇクロ。その話で思ったんだけどさ……
 ……変わる事って、どうしてこんなに難しいんだろうね」

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「小さい頃はさ、色々なものに手を出せて、影響を貰えて、変わっていけて、
 でも今は……うーん、なんか、平行線というか……」

手の動きが、無意識に髪を絡める。
その髪の長さが、絡めた長さほど短かった頃を思い返すように。
“過去の自分”と今の自分を結ぶ糸を手繰っているかのように。

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「努力して変わろうと思っても、どうにも体が動かないっていうか。
 変われるかもって期待して、結局同じとこにいるっていうか……。

 踏み出したと思っても、そんな事は無くて、
 思い知らされる……というか、さ」

言葉に迷うような沈黙が一つ。
下に移動していた視線をあなたに持ち上げ直して、首を傾いだ。

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「クロはどう?
 変わろうって思うのに、……よくないと分かってるのに、
 どうしても変われないことってある?」


──あなたには“変われないもの”はありますか?

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「ウチさ、“変わる気がない”わけじゃないんだよね。
 むしろ、変わりたいとは思うんだよ。
 だって、このままじゃ嫌だし。退屈だし。……置いていかれそうだし」

口では軽く言いながらも、指先は神経質にリボンをつまむ。

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「でもさ、変わるって……“今の自分を捨てる”みたいな感じしない?
 少なくとも現状って友達もいて、安全で、飢えはしなくて、凍えもしないし、傷付きもしない……。
 変わって無くなるのって……ちょっとだけ怖いんだよね。
 無くならない保証なんてされてないし、さ」

彼女は笑う。
けれどそれは苦笑とも、呆けともつかない曖昧な笑みだ。

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「“変わりたい理由”と、“変わらないままでいたい理由”、
 つり合いがとれちゃってる、のかな。だから動けないのかも。
 ウチ、そこらへんでいつも足止め食らってんの、マジだる」


言いながら、女は足を組み替える。
動きたいのに動かない身体を、座り直して誤魔化しているように。

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「クロはどう?
 変われないものってある?
 それって、なんでだと思う?」

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ひとみん
「変わること、ね…。正直、あたしは色々変わり続けないと仕事のニーズに答えられないから、あんまり変われないもの…ってのはないかな。あーいや…まあ…あるにはあるけど…。」

変われないもの。
あの日から…変われなくなった、私の一部分。

人間関係を築くのが、怖くなってしまった。
あれから、私は誰かをまた失う事が怖くなってしまって、軽い人間関係ぐらいなら構築も問題なくできるが…あの2人以外には、私の深みの片鱗すら見せられなくなった。

まあ、つまる所、傷つくのが怖いのだ。

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ひとみん
「ただ…そうだね、変わる気は、無いわけじゃないのに変われない…ってのは、理由とかも含めてわかる。けどだから…やればなんとかなる、って言い聞かせてまず踏み込んで、全部やってみる、これに限るね、あたしは。」

だから、あれから深い関係になった人は誰1人としていない。
まあ、いいことか悪いことかと言えば…どちらかと言えば悪いことだが…悪いことばかりでは、案外ないかもしれない。

何せ、関係の構築は本当に大変だ。お互いの関係を深めるためには、お互いにたくさんの恐怖やストレスを乗り越えなきゃいけない。たくさんぶつからないと、お互いのことなんかわからないから。
だからまあ…それがないのは…良いこととも言えよう。むしろ、ストレスがないのは楽だ。

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ひとみん
「まあ、同じようにやれとは言わないけど…一回やってみて、変わってしまって、それがダメだったら後戻りするのもまた一つの経験じゃないかな。違うか?」

無論、彼らに変に気を遣っていたかと言われれば答えはもちろんノーだが…一応ちゃんと関係を構築するまでにぶつかりはあったけど、だからこそこんなに良い関係になれたと言う。

ただ…正直、別の意味の方が本命で。
私は大層わがままなもので………"二度と他にこんな関係の人を作りたくない"、というわがままを持ってしまった自分がいるのだ。

決して後ろめたい気持ちなんかじゃない。決して、後悔じゃない。

私は…私はこの関係を、特別にしていたいのだ。
私達だけの、特別な関係のままでいたいんだ。

だから、私は多分これからも、このまま、内向的な人で居続けるんだと思う。
どう思われたって構わない。私は、私の中での彼が居た証を、

特別を守り続けたいと願っているから。

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ひとみん
「まあ、そうは言ったけれど…完全に後戻りできないものに関してはゆっくり慎重に進んだ方がいいとも思う。そこは個人の自由だけどな。」

これは、また別の話なんだけれど。変われないといえば、もう一つある。

それは、生き方だ。

もし仮に。仮にだ。もしこのまま、あいつも逝ってしまって2人とも居なくなったら?

今、既に私が生きている、2人がいない世界。すっかり、灰色に染まってしまって。
何も、何もわからない。とても陰鬱で、暗くて。毎日が変わり映えなくて…何一つ、生きてて笑えることが、ない。
いつも笑わせてくれた、明るい2人もいなくて、毎日のルーティンも必要なくて。

そんな世界で、生き続けるだなんて、私にはできない。

そうなったら…頑張って借金返して、親にも何か残して。
……そのまま首でも括って、2人のところまで行ってやろう、なんて私は考えていた。

こんな色のない世界に生き続けるなんて…私は嫌だ。
死の先がどれほど地獄であろうとも、私はあの2人といることを選びたい。

あの2人がいるだけで、地獄も色づいて、天国に変わるのだから。

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ひとみん
「まあ〜わかるんだよ?あたしも昔はそう思ってたからさ。でも…ゆっくり立ち止まって周り見てみるとさ、案外みんなが進むスピードってバラバラなんだよ。早く見えても遅かったりさ。止まってたりもするし。」

…話している間も、脳内を思考が駆け巡っていて、とてもうるさい。でも、口から出る言葉は、不思議と整っている。
変な感覚に少し眉を顰めながらも、私は話を続けていく。

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ひとみん
「だからまあ…そんなに焦らないでもいいんじゃないかな。進むスピードはそれぞれだし、それ以上に周りのスピードなんかわからないし。そもそもそれが足止めかどうかもわからないじゃん?進んでるのかもしれないしさ。」

だから、そんな慌てなくてもいいと思うよ、なんて付け足して。
若いんだから、人生まだまだこれからだし。焦ってもいいことなんてやっぱりないから。

これは…焦り過ぎた私からの、一つのブレーキ。

あなたは、間に合うといいね。