
ひとみん
「………………ん、…………!」
目を覚ますと、もはや見慣れた白い部屋。柔らかい空気に、目が痛くなる光。

ひとみん
「………あっれ………。…あたし、何してたんだっけ…」
なんか、体がだるい。
まあでもとりあえず、前みたいに椅子に座れば問答が始まるだろう。終わればまた帰れるはずだ。
そうしてまた、前と同じように椅子に向かう。
座って…前を見て。

ひとみん
「………………」
すると突然、目の前に気怠げなお姉さんが現れた。
なんかすんごいダル〜って感じの。
とりあえず話しかけてきたから、そのまま黙って話を聞いてると…
なんか…だいぶ普通の感性の人らしい。前までの2人とは比べ物にならないぐらい。
いや、てか、なんか存在してないかもしれんことにされてるけど私ちゃんと存在してるからね………?むしろそっちが存在してるかどうか訝しんでたとこなんだけど…?
なんて、なんだか、色々つられて肩の力が抜ける。とりあえずまあ、話しかけてきてくれてるらしいから、黙って聞いていた。
ただ…質問された内容がなんともタイムリーで、ちょっと顔を顰めてしまった。
さっきぼんやりしてる、なんて言われたから、向こうには表情までは見えていないだろうけれど。
とりあえず…また質問に答えていけばいいのかな、なんて、思い浮かんできたことを私はぽつぽつ話し始めた。

ひとみん
「…んー、そうだな、生きる理由…。シロが言う通り、あればいいもの…ではある…。」
ちょっと難しい話だ。実際、理由はあるけれど…いいと思えるような理由ではない。
話すかどうか千度迷って…結局私は濁して話を進めることにした。

ひとみん
「あたしは…生きててこう、この後なんかある〜、とか、誰かとすごせる〜とか、そう言う小さな楽しみとか…あとは逆に、親に育ててくれた恩を返さないといけない、っていう使命感とか…そのために生きてるんじゃないかな…」
元々私は、親に恩返し…所謂親孝行を人生の目標にして生きていた。
とても大切にしてくれたから、一刻でも早く楽をさせたかった。
私のために諦めたこともきっと多かっただろうから。
多分、再婚とかも、私がいるからと諦めていたんじゃないかと思う。
だから、さっさと卒業したら就活して、家を出て、結構大きめの企業に就職させてもらって、さあ、頑張ろうってところだった。
そこで、"あの事故"が起きた。
私はそこで父親に、恩を仇で返してしまった。
泣きながら実家に帰ったあの日、電話口で娘は何一つ悪くありませんじゃないですか!!!!なんて怒鳴ってくれていた横で、私はまた家を立つ準備をしていた。
会社には取り合えってもらえなくて、父さんは私のことを泣きながら抱きしめてくれたね。
でも…だからこそ私は、これ以上迷惑をかけるわけにはいかなかった。もうこれ以上迷惑をかけたくなかった。
だからその日の深夜のうちに家を出たんだ。携帯も財布もなんもかもを置いて。
そこから連絡は取っていない。借金して、色々支払った上で保釈金も払って、今は返済中の身だ。今更連絡しても、また迷惑をかけてしまうから。
違法で働いて、違法で別の戸籍を持って。毎日罪を犯しながら働いてる私なんか、絶対に父に見せたくないから。

ひとみん
「まあ、自分のためには生きてないよ、あたし。だって…そう言う生きる理由とか、自分じゃ見つけられないぐらいだからさ。」
けれども、今の私は、少し違って。
あの2人がいたから、私には私と言う存在自体に意味があったようなものだった。
そもそも私1人なら、私はただの屑。生きてる意味すらない。
そんな私に、あの2人は生きる理由をつけてくれた。
2人は、他の人から見たら怠惰だ、なんて言われるのかもしれないけれど…私はそうじゃない。
2人とも、身の回りのことは気が向いた時ぐらいにしかしないけれど、私にとっては2人のためにできることが増えるから、全て任せてくれたりなんてした日は、むしろ嬉しいのだった。
だから逆に、家にいる時でも仕事…というか、やることをくれて。
でもそれだけじゃなかった。あの2人は、大切な信頼関係もくれた。もうかけることが、なくなることがありえないぐらいの。
たくさん、私のことを大切にしてくれて。私なんか居なくてもいいなんて言った日にはめちゃくちゃ怒ってくれた。
だから苦しいんだ。
そうして、生きる理由だった2人が居ない今、私に、生きて、なんて言ってくれるように生活を…身の回りのことをさせてくれる人なんて、存在しなくて。
私なんて居なくてもいいな、なんて呟いても、怒って否定してくれる2人は、今はいない。
1人でいる私自身の身の回りの世話をする意味は、私にとってはないのと同じだ。だって、私は、1人なら存在しなくてもいいぐらいにどうでもいいから。
…もちろん、命を捨てることを何度でも考えた。けれど。けれどだ。
あいつは逝ってしまったけれど。彼は、…茶太郎は、死んだわけじゃなかった。
彼の方は、彼だけは、もしかしたら戻ってくるかもしれないから。
投げ捨てていいようなこの命すら捨てるに捨てられなくて。
願ってしまう。またあの日々と同じような笑顔で戻ってきてくれたら。
そんな考えが頭から離れなくて、私は己を殺せないでいる。そうしてそのまま私は、日々身体を、心を擦り減らして生きている。

ひとみん
「だからまあ、自分が何したいか…じゃなくてまずは、自分とか人とか置いといてさ、何したら楽しいか、とか…何したら元気出るか…みたいなとこから始めてみたらいいんじゃない?あたしから言えるのはそれぐらいかな…」
頭の中の話が大きく脱線してしまったが、口から出る話は脱線のだの字もなかった。
不思議だな〜なんて思いながら、そのまま私は微妙な気持ちで次の質問を待つのだった。