
ひとみん
「お〜い、約束のいちご持ってきたぞおい」
また、今日も私は容赦なく病室へ入る。
軽快に話しかけながら、荷物をカバンから出してきて。
…今日は、生のいちご以外にもいくつかいちごのお菓子なんかを買ってきたんだ。

ひとみん
「ほらみろ!イチゴ!腐ったら勿体無いからな〜?さっさと起きて食え、山盛りあるから!…まあ…なるべく青そうなの持ってきたからしばらくは寝てて大丈夫だけど!あ、もちろん今食うなら練乳も持ってきたからな!甘くないんでしょ〜なんて言うなって。」
なんて明るく喋り掛けながら、どさーっとお菓子やらイチゴやらを机に置いて。
ちょっと涙が出そうになる。それを無理やり引っ込めて。
今日は…何を話そう。そうだな…あのゲームの新作が出たって話とか?
うん…そうしようかな。このゲームの話、確かよくしてたもんな。
今日は、時間がたくさんある。追い出されるまでは病室にいられる。だから、いろんな話をしてやろうと意気込んで、私は病室に入ってきた。
ん〜、これ以外だったら何の話がいいかな、なんて考える時間ですら惜しく感じてしまう。

ひとみん
「今日な、休みなんだ!好きなだけ一緒に居れるぞ!ふっふっふ……なんと、今日はこれ以外にも耳寄りな情報を持ってきたぞ〜…」
……………………………………………………………………………………………

ひとみん
「起きたくなること…か…」
これは、さっきの話よりも前の話。
問診の後、医者が席を外した、その後で。ぽつりと一言、つぶやく。
起きたくなるほどの話って、彼にとってなんだろう。
起きたくなること、なんて一口に言っても…彼が居なくなってしまった今、どう声を掛けたらいいかすらもわからない。いちごとか、お菓子とかは好きだったけれど…これだけで喜んで起きてくれるかと言えば…わからない。それだけで治る傷じゃないのは…流石の私でもわかっている。
何せ、今こうして欠けてできた穴は、何をどうしても元に戻せない現実が、今私の目の前にあるのだから。
そんなことを考えている私の隣にあるベッドで、彼は機械のように規則的な呼吸をしていた。
そりゃあ、呼吸器に繋がれているから当然…なんだけれど。

ひとみん
「……なぁ、茶太郎…?…お前まで居なくなったら…私は……私は、どうやって生きればいいんだ…?」
独り言のように、小さく呟いて。
静かな空間に、この言葉だけが虚しく響く。
…多分、こんなんじゃダメだな。きっと。…彼を、板挟みにしてしまって、余計に苦しめてしまうだけだ。
私は…苦しみで、責任感なんかで彼を起こしたい訳じゃない。それにこれ以上苦しんでしまったら本末転倒だろう。
私は…彼の傷を痛ませたくないんだ。優しく包んで、治らなくても、痛みが少しでも引くように、絆創膏みたいな役割をしたい。
それなのに…私の口からは、うまく傷を包むための言葉が出ない。

ひとみん
「………………………………」
首を振って、深呼吸をいくつか挟んで。心を、呼吸を、震える喉を落ち着かせて。
…そうだ、いつもの調子で話しかけて見たら、どうだろう。
帰ってきても居場所はあるよと話しかけるように、居場所を取っとくから、安心して欲しい、なんて言うように、私はいつもの調子で彼に話しかけて見た。

ひとみん
「………………なぁ、茶太郎。お前、起きてくれなきゃ、冷蔵庫にあるいちご…………全部食べちまうからな…!ま、起きてくりゃ、また買ってやるけど!…それまでお預けだぞ…!」
そうして、心にそっと、今だけ蓋をのせて。いつもみたいにふざけて、笑う。
今は起きなくてもいいから…いつか起きて欲しいと、自分勝手に願っている。
今日の笑顔は…とても下手くそだった。