Chapter03-01

記録者: ウィルフレッド・メイフィールド (ENo. 13)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-17 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

またあの部屋に来たようだ。
小さな部屋には相変わらず椅子は一つきり。
壁を向いた椅子の先には、やはり何も見えない。

──あなたが椅子に座れば、
視界の向こうに椅子があり、そこに誰かが座っている。
三角に身体を縮めて座っていた
長い髪を気だるげに結んだ白い服の女が、
あなたに気付いた様子で緩慢に顔を上げた。

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「……えー……なんか居るんだけど。どゆこと?」

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「あー……まあ……ども。
 名前とか……あー…じゃあ、シロでいいや、この部屋白いし。
 君は……じゃあクロ。なんかぼんやりしてるし」

知らないもの同士、名前を名乗るモンでもないでしょうと。
シロを名乗った女は畳んだ身体をほどいて、
んん、と小さな声を漏らしながら伸ばす。

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「……こーいうのって、なんかあったよね。
 白い部屋に閉じ込められて……なんか……出られない部屋的な?
 初対面でこんなんされてもおもんねー……」

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「なんかこの白さ落ち着かねー……、
 内側をざわざわ触られてるみたいなー……。
 なんでこんなとこにウチら集められたんだろ。おもろい話なんてできねーっつの……」

嘆息ひとつ零した後、
白い部屋の隅の方に目を遣って、女はぼやく。

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「まー……夢ん中……なんかな。何話してもいいっちゃいいのか。
 クロだってウチの無意識が作った偶像みてーなもんかもだし……
 返事返って来るかもわかんねーし、適当こくか」

女は髪を束ねているリボンをいじる。
それは落ち着かない子どものようであり、退屈を紛らわせる大人の仕草にも見えた。

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「クロはさ、生きる理由とかって何だと思う?


──あなたには生きる理由はありますか?

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「別に生まれた時点で生きる理由とか要らね―とは思うけど、
 あった方がちょっと嬉しいというか、豊かな気がするんだよね。
 親が望んだから生まれた、以外の意味があった方が……なんかいいじゃん?」

言いながら、女はリボンをきゅっと締め直す。
その指先だけは、妙に確かだった。

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「生きる理由ってより人生の目的……って言う方が正しいのかも。
 小さい時からなんか、皆と一緒に~とか、大人の言う事を聞け~とかで
 結局どう生きたいかって全然分かんないなーってさ?

 ガチガチに矯正したくせに、急に「自分のやりたい事をやれ」って放り出されて、
 なんかそのまま今になっちゃった、みたいなさ……」

あなたをじっと覗き込む。
その視線は、答えを求めているようで、ただ誰かと共有したいだけのようでもあった。

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「クロはそういうのあんの?
 ウチも生きる理由っての──拾えるもんなら拾いたいんだよね。……皆目的に向かって歩いてるのに、
 ウチ一人だけ足を止めてる気がして、怖いからさ」

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「クロ、と呼ばれることに少々文句はあるが……」
「お互い素性を知らんほうが話しやすいこともある、か。」

男にとっては三度目の白い部屋。
今回もまた向こう側にいる人の形は変わっている。
雑につけられたあだ名に文句を言いたげではあったが、
毎回自己紹介するのも面倒だと判断したのだろう。
それで構わないと言うように息を吐いて足を組んだ。

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「人生という長い道のりを歩いていく際に、
 微かでもいいから道標が欲しい……といったところか?」
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「そう迷えている時点で贅沢だなといってやりたいが……
 質問には解を返してやらねば僕も帰れない。」
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「仕方ない、一例として話をしてやるのだよ。」

ふん、と鼻で笑って終わらせそうな雰囲気はあった。
しかし相手から向けられる視線に
何か思うところでもあったのだろう。
話してやる、と口を再び男は開く。

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「第一として、迷うことは悪いことではない。
 それは君の生活の豊かさを象徴するものに過ぎないからだ。」
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「裕福な家で育ったのだろう、と決めつけるわけではない。
 様々な夢を見ることが当たり前の世界で君は
 生きているのだろう、という僕の推測なのだよ。」
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「一律の教育を受け、それなりに舗装された人生の道を
 悩みながらも君は歩いていける世界にいるのだろう。」

それはとても素晴らしいことだ。
彼はその言葉を慈しむような瞳で呟いた。

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「しかし、そんな中。
 君はただフラフラと歩くことに不安を感じている。」
「他人の語る夢や理想、努力する他人の姿に
 焦りでも感じているのだろうか。」
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「生憎僕は自身のやるべき事や目標を常に設定し、
 達成してきた人物なのでね。
 そのような悩みに共感してはやれないが。」

どこか自慢げな顔をしてクスリと笑う。
対面相手は気分を害してしまっただろうか。
そんなことすら気にせずに、彼はまた言葉を紡ぐ。

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「君は……少々重く捉えすぎなのではないか?
 生きる理由、人生の目的……夢や理想というものを、だ。」
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「勿論、目標は達成すべきものであるから
 達成不可能な荒唐無稽なものを掲げてもな……と
 やる気になれないのはわからないでもないがね。」

例えば世界を征服するなんて言う目標は、
夢物語としか言いようがない。
その逆に世界を平和にしてみせる、なんていう目標も
きっと個人で達成しようだなんて無茶苦茶だ。

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「とある宗教によると、
 生きる理由は他者に必要とされることらしい。」
「人間は一人だけでは生活する事がままならない。
 直接的でも、間接的でも……他者に必要とされる機会は多いだろう。」

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「ただ……
 僕としてはこの例は正直、他人に依存しすぎだと思う。
 このような考え方は余計な悩みを生みやすい。
 だから僕はこれは勧めない。もっと簡単なものがある。」

右手を軽く、対面の方に向ける。
男は少し得意げな顔で小首を傾げて見せた。

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生きる理由を考える事、
 それが生きる理由で構わないだろう。
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「本当の答えを見つけるのは、何も今じゃなくていい。」
「結局何をしたところで人間は迷う生き物だ。
 真っ直ぐ夢や理想のために突き進んでいた人間だって、
 不意に小さな石ころに蹴躓いて迷い始めることもある。」

手を元に戻して男は語る。
それを探すこと自体を理由にしろ、と。

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「生命というものはただ放っておいてもダラダラと続くようでいて、
 その実、ある日ふとした瞬間に失ってしまうものだ。」
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「そのようなものでありながら、ずっと悩んで生き続ける……
 なんてことは無駄としか言いようがないのだよ。」
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「いいか、悩むことと考えることは違う。
 ぐるぐると頭を使って気が滅入るようなものは悩む、に該当する。」
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「受動的であること、とも言えるだろう。
 それはあまり生産的ではない。
 悩むなとは言わんが時間を多く割くのはやめておけ。」

彼はやれやれと、
どこか呆れたような顔をして肩を竦める。

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生きる理由を考えろ。
 自分なりの正解をいつしか見つけ出すために。
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「自分の生きる理由とはこれだったかもしれない、と
 思えるようなものを探せ。いつかきっと見つけられる。」
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「人生の目的とは”考える事”さえあれば十分だ。
 頭を使え、多くを見て学べ。」
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「君が羨む他人の夢や理想など、君には必要のないものだ。
 他人と君は違う。全く同じ考えの人間などいるわけがない。
 他人の夢に相乗りして、それを生きる理由にでもするか?
 冗談だろ、そんなもの思考停止しているのと違いがない。」

いいな?と釘を刺すように、
澄んだ蒼い目は対面する白に向けられる。

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「僕らは知恵のある生き物だ。」
「いずれ訪れる終わりの時に、自分なりの解を出すために。
 よく考えて生きろ。考える事が僕らの生きる理由だ。」