吸血鬼アマリエは、ゆっくりと瞬きをした。
責めるでも、否定するでもない。ただ、夜のように静かな声で言う。

「“どう測るか”って、結局は相手の行いでも言葉でもなく──
あなた自身の基準でしか判断できないのよ」

「どれだけ尽くされても、愛されていると感じない人は感じない。
たったひと言でも、愛されていると確信する人だっているでしょう?」
赤い瞳が、問いを置く。

「愛を測る基準って、自分の弱さや欲深さ──
本当の自分が一番よく分かっている欠けている場所なのかも知れないわね」

「誰にどれだけ満たしてほしいか、何を与えられたら安心するのか。
それがあなたの愛を測る物差しになる──とかね」
アマリエはふと視線を横にそらし、白い空間の奥にある、
見えない何かを覗き込むように瞬きをした。

「……あら。そろそろ終わりみたいね」
「次が最後のトイカケだわ。
……あなたにとっての“今回”の、ね」

「ねえ──最後に教えて?
あなたが望む愛の行き先はどこ?」

「あなたが欲しいのは、どんな結末の愛?」
⸻
フェルヴァリオは答えに詰まった。
正直、彼女の言いたいことがほとんど掴めなかった。
価値観が、あまりにも違いすぎる。
火と血。天秤と衝動。燃えるものと、縛るもの。
少し考えて、ぽつりと答える。

「……相手に、多くを望まないことかな」
視線を逸らしながら、言葉を選ぶ。

「こうなってほしい、とか、こうあるべき、とか、
そういうのを相手に押し付けない。それが、オレの愛の行き先だ」
肩をすくめる。
焰は照らすことはできるけれど、進む道までは決めない。
フェルヴァリオは指先で机を軽く叩く。

「……望むと求めるってさ、全部、信頼がある前提じゃない?」
ちらりとアマリエを見る。

「信頼もない相手に、やってもらいたいことなんて出てこない。
逆に言えば、信頼があるなら、いちいち条件を並べなくてもいい」
焰色の瞳が、少し柔らぐ。

「火だってそうだよ。
燃やすつもりがなくても、近づけば勝手に暖かい。
それをしてもらったとは言わないだろ?」
小さく息を吐き、肩の力を少し抜く。

「だからさ、オレの答えは変わらない。
相手に望まないこと。
信頼があるなら、行き先なんて決めなくていい」
白い部屋は静まり返る。
愛を契約として語る者と、愛を前提として置く者。
その差は、天秤に載せるには、あまりにも質が違っていた。