吸血鬼アマリエは、笑みを崩さなかった。
けれど、その声は少しだけ低くなる。

「差し出すという行為はね、
裏返せば奪われてもいいという覚悟なのよ。
時間を奪われても、血を奪われても、自由を奪われても──
それでもいいと思えるほど誰かを好きになる。
それが、愛の輪郭を決めると私は思っているの」

「だから、どこまで差し出せるか──
その答えはあなたがどんな愛を求めているかを暴いてしまう」

「ねえ。差し出せる量が“あなたの愛”を示すのだとしたら……
じゃあ、“相手の愛”はどう測ればいいのかしら」

「どうしたら誰かの愛の深さを確かめられるのかしら?」
赤い瞳が、まっすぐ見据える。
問いは静かで、鋭い。
フェルヴァリオは肩を落として、少し呆れたように笑った。

「……どうして、そんなに説教くさいのかな」
(確かにさ。人間を本気で近くに置いたら、そいつはオレの鱗を剥ぐだろう。)
でもだからって、『壊される覚悟がないなら愛じゃない』なんて
話になるのは、違うだろ。愛を確かめる話なのにさ
どうして、奪う・奪われる、なんて言葉が当たり前に出てくる?」
フラスコの口を指で塞ぐ。
小さくくるりと回しながら、視線はアマリエから逸らさない。
その動きに、少しだけため息が混じった気がした。

「傷つくかもしれないのはわかる。
でも、それを前提条件みたいにして測ろうとするのは、正直嫌だ。
それに、愛って、物量があるものなんだね。重さとか、深さとか、対価とか」
小さく息を吐く。
肩の力が、一瞬だけ抜ける。言葉に、息がきゅっと詰まった気がした。

「じゃあさ……きっと、オレの愛は君には測れないよ」
焰色の瞳が、ふと遠くを見つめる。
ほんの少し笑みが漏れた。
竜らしい、くすっとした柔らかな笑いだった。

「火はね、量じゃない。芯があれば、燃える。
薪が少なくたって、世界を焦がすこともある。
奪われる覚悟があるかどうかじゃなくてさ、燃えてるかどうかだと思うんだ。
だから、測ろうとした時点で、もう違うんだと思う。」
軽い笑いの裏に、決して天秤に載らないものが確かにあった。
フェルヴァリオはフラスコを置き、両手を軽く広げた。

「それから……待って」
赤い瞳をまっすぐ見つめ、焰色の瞳に冷たい光を宿す。

「いや、アマリエ。正直、気色悪い」

「人間に対して、奪うこと前提で近づくなんて、魂胆が丸見えじゃないか。
愛を測るとか覚悟をどうとか言う前に、
君は平気で加害することを選択肢に置いている。
それを『愛の試金石』とか『覚悟』とか言って正当化するんじゃない。
傷つくかもしれないのはわかる。
でも、自分から傷つけることを前提にして、
それを受け入れられなきゃ愛じゃないって……」
少し息を整えて肩の力を抜く。
それでも目線は絶対に逸らさない。
軽く笑う。
その笑いは譲れない線を守るための、冷たい鎧みたいなものだ。

「加害を前提にする奴に、心を預けるつもりはない」