吸血鬼アマリエは、静かに笑った。
赤い瞳が、どこか遠い夜を映している。

「……自由って、孤独とよく似ているの。
誰にも触れられないから、何だってできるけれど……
誰も自分を求めないという事でもあるわ」
私の持論だけれどもね、とあなたの答えのあとに告げ、
彼女はその言葉を噛みしめるようにゆっくり瞬きをした。
真っ白な部屋の光が、金髪に柔らかい縁を描き、赤い瞳に深い影を落とす。
吸血鬼は足を組み直し、少し身を乗り出す。
声の高さは変わらないのに、不思議と距離だけが縮まったように感じる。
言葉は柔らかいのに、芯がある。

「愛は自由を奪う。でもね、
愛だけがそのひとを1人じゃなくしてくれる」

「……面白いと思わない?
誰かを好きになるって、それだけで前の自分に戻れなくなるの。
行動も、選択も、価値観すらも……気付けば誰かの影響で変わってしまう」

「私はね、愛ってどれだけ差し出せるかで深さが決まると思ってる。
時間でも、血でも、名前でも、自由でも、命でも。
捧げた分だけ、その人はあなたの中に根を張るの」
コン、と椅子の脚が床を叩く。
アマリエはあなたへまっすぐ身体を向け、声を落として問う

「だから──あなたはどう?」

「愛のために、自分のどこまでを差し出せる?」

「ちょっと待って。
愛だけが1人じゃなくしてくれるって
……相手に依存しすぎじゃない?」
露骨に混乱した顔。
フラスコを軽く振りながら言う。

「誰かの影響で行動や選択、価値観まで変わるのはわかる。
でもさ、自分そのものが変わるとは思えない。
火がいきなり緑になる?
そんな現象が起きたら、それは世界の律が歪んでいる。」
鼻で小さく笑い、口の端を指で押さえる。

「くすくす笑ってるけどさ
愛も、天秤に載せられる側なんだ?」
ふっと、視線が鋭くなる。

「じゃあ──
吸血鬼なら、血がある。伸び縮みしそうな皮膚とか牙でもいいし……
尻尾があるなら、それでもいい。」
冗談めかしているが、目は真剣だ。

「前提としてね。差し出すって行為は、信頼があるから成立する。
……なのにさ。
もし今、オレが君の血を奪うよって言ったら、どう思う?」
続けて、彼は淡々と告げる。
焰色の瞳が、赤を射抜く。

「君は吸血鬼で、オレは万物を統べる竜だ。
理屈の上では、君を錬金の素材にしても何の問題もない」

「……ね、不愉快じゃない?」
1拍置いて、問いかける。
それは挑発でもあり、価値観そのものを量るための秤でもあった。
愛は、差し出されるものなのか。
それとも、勝手に燃え移るものなのか。
アマリエの沈黙が、この部屋に次の問いを呼び込もうとしていた。