Chapter05-01

記録者: Πολύτιμος λίθος ρουμπελίτης (ENo. 204)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-17 04:00:00

クリックで開閉
あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

変わらぬ様子のその部屋の、ただひとつの椅子に腰を掛けると──
あなたの向かいには、まず鮮やかな赤色が揺らめくように浮かび上がる。

icon
「──あら。今日も来てくれたのね?」

icon
「それとも〝今日のあなた〟は初めてのあなた?
 一体此処の時間軸はどうなってるのかしら、本当に面白いわ」

くすくす、と透明な鈴のような笑い声。
少女の姿をしたそれは、あなたを値踏みするでもなく眺め、
こちらの反応を楽しむように言葉を紡ぐ。

icon
「あなたも分かっているでしょう?この部屋はいつでも
 同じところに戻る事ができる・・・・・・・・・・・・・のよ」

icon
「思索を重ねた後、また同じ質問に答えたいとき、
 そうあなたが望むなら、あなたはまた同じトイカケを受ける事が出来る」

icon
「──考えは日々変わるものよ。
 常に同じ答えを出し続ける生き物なんてきっと存在しないわ。
 今を語る、今を自覚する、そのためにこの部屋を使えばいいのではなくって?」

歌うように紡がれた言葉は、どこか甘く、どこか寂しい。
まるで無窮の眠りの中で、何度も同じ思索を拾い直してきた者の声音のようだった。

icon
「私はアマリエ。とある世界の吸血鬼よ。
 ずぅっと昔に封印されてるから、きっと誰も私を知らないわ」

さらりと自己紹介を流し、あなたの名前を問う事はしない。
いつかに知ったのかも知れないし、この部屋の性質を知っているが故
わざわざ訊く必要も無いとしているのやもしれない。

そうして吸血鬼は、何も迷う事も無くトイカケを紡ぎ出す。

icon
「私はずっと同じ事を問い続けている。
 一意に定まる答えが無いと知っているけれども、
 それでも追及する事に無駄は無いと思っている。

 あなたにとって答える価値が無いなら目を閉じてご覧なさい?
 きっと元のところに戻れるわ」

ふと、吸血鬼の紅い瞳があなたを真っ直ぐに射抜く。
その奥には、何百回も、何千回も、この思索を繰り返してきた気配が宿っている。

icon
「ねえ、あなたにとって──愛ってどんなもの?


──あなたにとって愛とは何ですか?
Answer
icon
「愛、か……」

icon
「これは貴方にお任せしてもよいでしょうか」

icon
「そう?主様は語れる話題がない?」

icon
「いえ…。家族愛だとか、親愛だとか、友情だとか、名もなき大切な方だとか。愛情といってもさまざまなかたちがありますから、私にも語れる経験はあります、が…
ここは、貴方が『恋愛について』の愛で答えて差し上げるのが、1番問いに近いのではと思うのです」

icon
「なるほど…ね」


icon
「『どんなもの』。どんなもの、か。
僕にとって、愛は最初は朧げなものだった。
世話になっていた精霊たちに囲まれていたし、それも多分愛といえば愛なんだろう、けれどね。僕は誰かと関わるのが、あまり好きじゃなかったから」

icon
「だから主様の話を聞いたり、人間との関わりの話を伝えられても、僕は興味もなかったし、このまま草に宿って過ごしていてはだめなのかなと、正直、否定的な気持ちでいたよ」

icon
「その草がなくなって、代わりに布地になって。慌てて外へ出たら、何かの作用かフェストリアに飛ばされて。
最初は、随分と迷惑なことに巻き込まれたな、って思った。ただ帰れるようになるまでは、そこの住人とまあまあ上手くやらないといけないだろうと
-結局彼らは皆、僕と同じように他の世界から招かれていた客人だったけれど-
思って、慣れない言葉を駆使して会話をしてた」

icon
「あの時はさ、誰かに興味を持つとか、好きになって、想いを交わして、世界を超えた約束することになるなんて、思ってなかったよ。
だから、愛っていうのは自分がどうにかできるものじゃないと思うんだ。
誰かがいて、そこに愛が生まれる。生まれるからそれを大切にしたいと思う。そうして、今僕はその愛を大事に育てている。意図して生まれたものじゃないし、予想もしてなかったことだ。でも、今確かにそこに『愛』があると、僕は確信できる」

icon
「僕にとって、愛ってそういうものだよ」