Chapter05-01

記録者: ダミアン・ガルーナ (ENo. 145)
Version: 1 | 確定日時: 2025-12-17 04:00:00

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あなたがふと気が付けば、真っ白な部屋に居た。
そこには椅子がひとつ置いてあるだけで、他に何もない。

変わらぬ様子のその部屋の、ただひとつの椅子に腰を掛けると──
あなたの向かいには、まず鮮やかな赤色が揺らめくように浮かび上がる。

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「──あら。今日も来てくれたのね?」

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「それとも〝今日のあなた〟は初めてのあなた?
 一体此処の時間軸はどうなってるのかしら、本当に面白いわ」

くすくす、と透明な鈴のような笑い声。
少女の姿をしたそれは、あなたを値踏みするでもなく眺め、
こちらの反応を楽しむように言葉を紡ぐ。

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「あなたも分かっているでしょう?この部屋はいつでも
 同じところに戻る事ができる・・・・・・・・・・・・・のよ」

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「思索を重ねた後、また同じ質問に答えたいとき、
 そうあなたが望むなら、あなたはまた同じトイカケを受ける事が出来る」

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「──考えは日々変わるものよ。
 常に同じ答えを出し続ける生き物なんてきっと存在しないわ。
 今を語る、今を自覚する、そのためにこの部屋を使えばいいのではなくって?」

歌うように紡がれた言葉は、どこか甘く、どこか寂しい。
まるで無窮の眠りの中で、何度も同じ思索を拾い直してきた者の声音のようだった。

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「私はアマリエ。とある世界の吸血鬼よ。
 ずぅっと昔に封印されてるから、きっと誰も私を知らないわ」

さらりと自己紹介を流し、あなたの名前を問う事はしない。
いつかに知ったのかも知れないし、この部屋の性質を知っているが故
わざわざ訊く必要も無いとしているのやもしれない。

そうして吸血鬼は、何も迷う事も無くトイカケを紡ぎ出す。

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「私はずっと同じ事を問い続けている。
 一意に定まる答えが無いと知っているけれども、
 それでも追及する事に無駄は無いと思っている。

 あなたにとって答える価値が無いなら目を閉じてご覧なさい?
 きっと元のところに戻れるわ」

ふと、吸血鬼の紅い瞳があなたを真っ直ぐに射抜く。
その奥には、何百回も、何千回も、この思索を繰り返してきた気配が宿っている。

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「ねえ、あなたにとって──愛ってどんなもの?


──あなたにとって愛とは何ですか?
Answer
もう幾度目かの白い部屋、今日の話し相手はどんな人物だろう、と椅子に腰を下ろしただろう。
現れた少女に人懐っこく微笑みかける。

「こんにちは。俺は多分、キミと会うのは初めてだよ。俺のこと、黒っぽい影に見えてる?」

以前にこの部屋で出会った人から聞いたことを思い出し、こちらの姿がはっきり見えていないための発言だろう、そう推測したが、少しそれから外れた返答が返ってくるのに腕組みして考える。

「同じ場所に戻れる? そうなの? この部屋に来るのは5回目だけど、俺は同じ人ともう一回会えたことは今のところないよ。この部屋、ほんとに不思議な部屋なんだねぇ」

以前の問いかけの部屋に戻ることが出来る、そう聞いて首を傾げるだろう。
過去にこの部屋で出会った人々には出来るならまた会ってみたいと言う思いはあるものの、今は彼らと交わした言葉をやり直したいとは思っていなかった。
一つ頷いて、宙に馳せていた視線を少女へ戻す。

「そうだね。ここで話すこと、結構普段考えないこと考えるから、そういう機会って貴重だよね。アマリエちゃんともそういう話ができるの楽しみだな」
「あ、俺はダミアンっていうんだ。よろしくね」

見た目とチグハグな印象の声色に、ほんのりとアマリエが自分とは違う時の流れにいることを察していただろう。
しかし、これまで出会ってきた人々に接するのと同じように、人懐っこい笑みを浮かべてその声に耳を傾ける。

「アマリエちゃんがずっと考えてること? なんだろな、俺が答えられることなら、考えてみるよ。なになに?」
「って、愛、かぁ~……! これまた難しいやつだねぇ~」

ガーネットのような瞳にまっすぐ見つめられた問いかけに、額に手を当てて苦笑いを浮かべているだろう。
何度も愛、愛な~、などと繰り返しながら右へ体をひねり、左へ体をひねり、言葉を絞り出そうとしているようだ。

「アマリエちゃんの言う通り、一個に定まるものじゃないよね。なんていうか、誰が誰に向けるのかで全然変わってきちゃうんだろうし」
「だから、俺の答えも、俺が俺の大事な人に向けるものなら、ってことになると思うんだけど、その人のためになることをしたい、幸せにしたいかなぁと思うよ」
「いや、他にも、俺のことを好きになってほしいとか、できるだけ一緒にいたいとか、ちょっとあるけど。でも、それはそうだったら俺が嬉しいなってだけなんだけど」

そう言葉をまとめると、少し頬を赤らめて、なんかチョーハジー、と照れて顔を覆っただろう。